受付に向かい、まずはイブのクエスト報告を行う。

「はい、イブ様ですね。先程、ダット商店の会長より、報酬額の増額を受け付けています。さらに指名手配されていた盗賊団の捕縛まで成功していますね。警備隊からの別途報酬も上乗せして、金貨10枚になります」

「えっ、そんなに⁈」

 受付の女性が読み上げる報告に、イブは驚いて目を丸くする。

「金貨10枚って、多いのか?」
「えぇ、今回はDランク依頼だったから、相場なら金貨2枚程度かな。ちなみに金貨1枚で10日間は暮らせるよ」
「そりゃ凄い。大サービスだな」

 二人で分けても金貨5枚。全く手持ちのない俺にとっては、ありがたすぎる。

「取り調べによると、彼らは『青のサソリ』と名乗っている盗賊団の下部組織のようです。最近、近隣の街を中心に被害が拡大しており、警備隊も警戒度を高めていました。なので、報酬も高額になりました」
「そうだったのか……」

 スライムたちの力を使って一瞬で倒してしまったので、彼らの詳しい背景については知るタイミングがなかった。
 森での場面は、意図せずの遭遇だったけど、人助けになったのなら良かった。

「そしたら、トキヤの冒険者登録もしましょうか」
「そうだな」
「そちらの方の冒険者登録ですね。申し遅れました、私はギルドで受付をしております、シャーロットです」

 シャーロットさんがペコリと頭を下げる。
 淡々としているけど、仕事ができそうな人だ。

「あ、千葉時也です。よろしくお願いします」
「はい、ではこちらの書類にーー」

 促されるまま、書類に書かれた項目を埋めていく。
 その途中、ある項目で一瞬手が止まる。

「えっと、レベルか。ちなみにイブはいくつなの?」
「私は26だよ。これでもCランク冒険者で、この街では結構強い方なんだから」

 心なしか胸を張って、ちょっと自信ありげな口調のイブ。

「そういえば俺は今どうなってるんだろう……」

 こっそりステータスをオンにする。

『レベル:28
 攻撃:60
 防御:68
 魔法:54
 体力:72』

「えっ」
「どうかしたか?」

 思わず漏れた声に、不思議そうに俺の顔を覗くイブ。

「い、いや、なんでもないよ」

 悟られないように、慌てて誤魔化す。

 コボルトをテイムしたことで、いつの間にかレベルアップしていたようだ。
 自信ありげなイブの前で、一日で君のレベルを超えてしまったなんて言えるはずもない。

「まあ10くらいにしとくか」

 イブでも街で強い方なら、本当のレベルを書いてしまうと、下手に目立ちそうだ。
 いきなり高難易度のクエストを任されても困るし、控えめに書いておこう。

「スキルは『テイマー』っと」
「テイマー⁈」

 シャーロットさんが、いきなり素っ頓狂な声を上げる。

「ん? テイマーですけど、何か問題でも?」

 シャーロットさんは、呆れたような半笑いを浮かべながら、わざとらしくため息をついた。

「あのですね、テイマーと言ったら典型的な底辺職じゃないですか。冒険者には向きませんよ」
「えっ、そんなひどい」

 シャーロットさんの冷たい態度に、思わず狼狽える俺。

「待ってください、トキヤはすごく有能なテイマーですよ」

 困っている俺を見かねて、イブが割って入るようにして庇う。
 優しい……。

「イブさん、冒険者には危険が伴います。戦闘に向いていないスキルの人を説得するのも、ギルドの役目です」

 シャーロットさんは憐れむようにして、イブと俺に交互に目をやる。

「テイマーが扱えるのはせいぜい低ランクの魔物一匹程度。なのに魔法や戦闘の適性がないから、レベルも上がりにくいですし」
「え、でもテイムした魔物の経験値が入ったりとか……」
「いやいやいや、そんな都合の良いスキルがあるわけないじゃないですか。夢を見るのもいい加減にしてください」

 何故か怒られる俺。
 本当のことを言っているつもりなんだけど……。

「レベル10っていうのも本当ですか? ステータスが他人から確認できないからって、嘘をつくと実力以上のクエストを任されて、簡単に死にますよ」
「もう! とにかく、冒険者登録を受け付けてください! トキヤの実力は私が保証します」

 イブはぷんすかと頬を膨らませながら、僕の書き終わった書類を突き出す。

 受付のシャーロットさんは不本意そうにそれを受け取ると、

「……冒険者登録を受理しました。それでは、最初はFランクからのスタートになります。頑張ってください」

 テイマーがこんなにも不評なスキルだったとは、思いもよらなかった。
 なんだか冒険者登録をするだけでも一苦労だったな。

 そんなことを思いつつ、冒険者登録が終わった後は、イブが利用している宿泊先や生活雑貨屋の紹介をしてもらった。

「もう、何なんですかね。トキヤの実力も知らないのに」
「はは……イブ、ありがとう。庇ってくれて」

 しかし、シャーロットさんが言っていたテイマーのスキルと、実際に俺が使っている能力とでは、だいぶ乖離があるようだ。
 何か理由があるのだろうか?

「当面の生活費は手に入れたけど、冒険者としての経験も積みたいし、さっそくFランクのクエストを探してみるよ」
「おっ、いいね! そしたら、案内掲示板を見てみよう」

 そう言って、イブと共にクエスト依頼の貼られた案内掲示板を眺める。

「これなんか良いかな。『魔物の森での薬草採取』だって。俺たちが出会った場所だよね?」
「薬草採取なら、安全だと思うよ。はじめてのクエストにはピッタリね」

 お試しには良さそうだ。これにしよう。

「ーーよし。これから冒険者として、頑張るぞ」

 俺は拳を握り締め、この異世界で生きていく決意を新たにした。
 しかし、これから波瀾万丈の異世界生活が待ち受けているとは、想像もしていなかったーー