「ーーふう、とりあえずこんなものかな」

 目の前に集まった魔物たちを眺めながら、額に浮かんだ汗を拭く。

 数時間、森をひたすら歩き回った結果。

 スライム数十匹を始め、ゴブリンも数匹テイムすることに成功した。

「なかま、たくさんー」
「たのしいねー」

 スライムはみなペラペラと喋るようになったが、ゴブリンはテイムしても「ごぶごぶ」と言うだけで、人の言葉を喋るようにはならなかった。
 知能については同じ魔物でも差があるようだ。

「とりあえずは、手頃な魔物とエンカウントできてラッキーだった」

 スライムはまだしも、ゴブリンは小柄とはいえまともに戦えばなかなか怖そうな見た目をしている。

 俺は未だに手ぶらで、まともな装備もしていないし、戦いについては完全に素人。
 相手を倒す必要もなく、手をかざすだけでテイムできるのは本当に幸いだった。

「ステータスもだいぶ上がってきたな」

『レベル:18
 攻撃:32
 防御:40
 魔法:31
 体力:45』

「しかし、この世界のステータスは普通どれくらいなんだろう……人と会わないと、自分が強いのか弱いのか、判断がつかないな」

 まだこちらに来てから魔物としか出会っていない。
 そろそろ人恋しくなってきた気もする。
 街が近くにあるといいんだけど……。

「ごしゅじんさま、お腹減ったよー」

 スライムたちが、声をそろえて主張する。

「確かに、俺も歩き回ってお腹が減ってきたな……どうやって食事を確保しようか」

 というか、魔物は何を食べるんだ?
 自分より小さい魔物とか? あるいは植物とか?

「おいしいー」

 気がつくとスライムたちが近くの草木をむしゃむしゃと食べ始めた。
 ゴブリンも木の根っこを掘ってパクパク食べている。

「ごしゅじんさまも食べるー?」
「いや、食えるか!」

 流石に草を生で食べるほど、サバイバルを覚悟できていない。

 しかしなるほど、こいつらは普段から植物で栄養を摂取しているのか。

「どういう消化器官の構造になっているんだろう」

 魔物の身体の構造も、ぜひとも研究してみたい。
 草食や肉食といった概念とは根本的に異なるのかもしれない。
 元動物医療に関わった者として、関心は尽きない。

「トキヤ、目が怖いよー」
「おっと、すまん」

 なぜか引いた様子で怯えるスライムたち。
 研究対象を見るような目でスライムたちを眺めていたかもしれない。

「……そろそろ森を抜けられたら良いんだけど」

 そもそも、数時間歩いてもまだ外に出られないことを考えると、この森もなかなかの広さだ。
 食事もだが、ここからの脱出方法を考えないといけない。

「これだけ歩いたら、流石に少しは疲れていたはずだけど」

 お腹こそ減ったが、身体はまだまだピンピンしている。

 前世では連勤に次ぐ連勤を経験していたので体力には自信があったが、長距離を徒歩で移動するようなことはなかった。
 ステータスが上がったことで、少しは身体も強化されているのかもしれない。

 そんなことを考えていると、

「おら! 大人しくしろ!」
「くそっ、近寄るな!」

 不意に、遠くから人の叫び声が聞こえてきた。

「なんだ?」
「人が襲われてるみたいー」

 緊急事態の雰囲気に身構える俺に、スライムたちがそう答える。

「分かるのか?」
「ごしゅじんさまなら、ぼくたちの視点を共有できるよー」
「ん? 視点の共有?」

 スライムたちに促されるまま、俺は目を瞑って念じる。

 すると、頭の中で自分とは違う視点が浮かんできた。

 ここから少し離れた場所で、馬車を囲むように、柄の悪い男たちが群がっている様子が見えた。その場で交わされる怒鳴り声も聞こえる。

「この視点は……」
「声がした方に向かったスライムたちだよー」
「ほお、こりゃ便利だな」

 俺のスキルは、テイムした魔物と目や耳を共有できるようだ。
 これは探索や調査に便利そうな能力だ。
 テイマーは魔物の能力を色々と利用できるらしい。

「っと、感心してる場合じゃないな。皆、馬車を囲むように向かってくれ」
「りょうかいー」

 テイムした魔物たちを引き連れて、俺は現場に向かった。