それは俺が獣医師として、三ヶ月休みなしで働き続けた、ある日のことだった。

「くそっ……動物は可愛いし助けたいと思うが、流石にこの連勤は堪えるな……」

 文句を垂れながら作業をしていると、

「あれっ……」

 深夜の動物病院でカルテの整理中。
 突然視界がぼんやりと霞みがかってきた。

「身体が……動かないぞ……」

 連勤の過労からくる立ちくらみかと思ったが、一向に収まる気配がない。
 むしろ、どんどんと狭まっていく視界。

 俺は糸の切れた人形のように、ふらりと地面に倒れた。
 大きな音が部屋に響く。
 しかし不思議なことに、身体の痛みを全く感じなかった。

「あれ……これ、ヤバい?」

 俺は暗くなる視界の中、走馬灯のように自分の人生を思い出していた。

 千葉時也、三十五歳。独身。

 両親が早く亡くなって、孤独に過ごした幼少期。
 自分と同じ境遇の孤独な捨て猫を拾って以来、大好きな動物たちを助けたいと思い、必死に勉強を頑張って獣医師になった。
 獣医師になってからは、命を救うため、ひたすら奔走する日々ーー

 孤独は、悲しいものだ。
 もうあんな思いは、したくない。

『スキルを獲得しました。スキル名はーー』

 頭のどこからか響いた、ひどく無機質な声。

 それが何なのか、考える間も無く、俺の意識は完全にブラックアウトした。


◆◆◆


 暗闇の中に、一筋の光が差し込む。

「ーーん、眩しい……」

 俺はゆっくりと、重たい瞼を開いた。

「な、なんだここは……」

 そこには、青い空と果てしない森が広がっていた。