家に帰り、コクトから聞いた話をお祖父ちゃんにした。

「私のお父さんとお母さんって、どんな人だったの?」

今までは、優しい人だとか素敵な人たちだったとしか聞かされていたかったけれど、今日は違う言葉が返ってきた。

「あの天狗に聞いたのか?」

「えっ、コクトのこと知ってるの!?」

驚く私に対してお祖父ちゃんは微笑んでいた。

「あの小人天狗はコクトと言うのか」

前にミニコクトを連れて帰った時、私は小人としか言わなかったのに、お祖父ちゃんはそれを天狗だと見抜いてた。



時計の針の音が静かに響く部屋で、仕舞われた過去の記憶が紡がれる。


「エマの母親は人間だったが、父親はあやかしの天狗だった」


私の父は、街で会った母に一目惚れしたらしい。

過去に人間とあやかしが結ばれた前例はなく、それ故に二人は周囲に事実を告げることはなかった。
祖父には子を授かって初めて打ち明けたという。


街の人々は、あやかしを嫌い、恐れ、恨んでいたが祖父だけは違っていた。

「この世に存在しない者などいない。出会ったのなら、もてなせ」昔からこれが口癖だった祖父は、あやかしだった彼をもてなし、二人のことを快く受け入れた。


「エマが生まれてからは三人で仲良く暮らしていくのかと思っていたが、二人の考えは違っていた」


人間とあやかしの子だというだけで、普通の幸せを与えてやれないと思った二人はエマに真実を伝えることなく、この世を去った。
何も知らず、人間として生きていくことがエマにとっての幸せだろうと、祖父に預けたのだ。


「二人が出会ったのは、まだ人間があやかしと共存していた頃だ。そして、エマが生まれたのは山火事の一件があり、あやかしに対する固定概念が生まれた頃。
本来なら普通の家族として受け入れられるはずが、街の者たちが抱くあやかしの虚像が広がる一方で、生きづらさを感じていたのだろうな。お前たちは、普通の家族以上の、素敵な家族になれたはずなのに」


その口調から祖父はあやかしの正体を知っていることが分かる。

最後に「この世を去らずとも、他に方法はあったはずなんだがな……」と、ぽつりと呟いていた。




一人部屋に戻ったエマは考えた。

やはり今のままではだめだ。
私がこの世に残された意味を考えろ。

今の私があるのは、両親が選んだ最善の結果。それが間違いだったとは思わない。でも、私の幸せは自分で見つけられる。

私にとっての幸せは、人間とあやかしが共存できる街を取り戻すこと。

それこそ、祭りを中止にしてでも。
ここで私が逃げれば、何も変わらない。
両親が見つけられなかった未来を、私が見つけ出す。