今にも消えそうだった意識の中に、温もりが頬から染み込むように入ってくる。人の体温とも灼熱の業火とも感じられる温もり。その温もりはどこか優しく感じた。
 優しく、暖かく、包み込むような感覚。あぁ、心地いい…。

「っ」

 そう感じた刹那、まるで灯火がついたように僕の意識がみるみるうちに明瞭になっていく。さっきまでなにもかも消えてしまいそうな意識の底の底にいたはずなのに、その暖かさが徐々に引きあげてくれている。
 覚醒する意識の中、体に感覚が戻ってきた。身体中の傷が痛み出す。それほどにまで感覚が鮮明になっていた。
 戻ってきたおかげで激痛が僕を襲うも、それを塗り替えるように頬に触れた温もりと同じ暖かさが体に広がるのを感じた。
 それはまるで燃え移り広がる炎のように。

「ん」
「…赤翼くん…赤翼くん」

 開けなかった瞳に視界が戻る。その視界の先には僕の名前を呼びながらボロボロと大粒の涙をこぼす不知火さんの姿があった。
 僕が目を開けたことに気がついていないようだ。
 彼女の涙は僕の顔にこぼれていき、暖かく体を満たしてく。さっき感じた暖かさは不知火さんの涙だった。
 戻りかけのふわふわとした意識で僕の顔に降りかかる涙を見る。その涙は青白く燃えているように見えた。

「……」

 涙が青く燃えている?身体中に感じる暖かな違和感。そういえばさっきまで痛かった手足が、今はそこまで痛く感じない。不思議に思い、自分の体を見る。


「…嘘」

 自分の体を見て驚いた。僕の体は炎に包まれていた。さっきまで痛みを感じていた箇所を中心に、メラメラとまとわりつくように火が灯っている。
 ただし、燃え盛るような赤い業火ではない。それは青白く美しい炎で、全く熱くない。むしろ僕の頬に触れる不知火さんの涙と同じ、優しく心地いい暖かさだった。
 驚くことにその炎は彼女の涙が触れたところから広がっている。
 見間違いなどではなかった。本当に彼女の涙は青白く燃えていたのだ。