しかし数秒後。

「煙がすごくて…げほっげほっ」
「先生、大丈…げほっ」

 立ち上る黒煙が上で引き上げる2人に直撃する。

「せ、先生!生駒くん、大丈夫ですか!?」
「このままじゃ私たち2人とも煙で死んじゃう」
「…そんな」

 徐々にロープに加わる力が弱まる。きっと先生たちは黒煙の中で視界も悪く、かつ煙で頭もぼーっとしてしまってるのだろう。
 私の体はその損傷を受ける度に、軽い熱と炎を出し修復している。それで生み出す熱と煙が逆効果になって、今は先生たちを苦しめている。

「あぁ…もう…」

 本当にこんな体でいいことなんて1つもない。普通の人間ならこんな風に誰も傷つけず赤翼くんを助けられたかもしれない。
 刹那、記憶がフラッシュバックする。

………


 小学校の頃の記憶。
 家庭科でお母さんへのタオルを縫っていた。たまたま縫い針で指を傷つけた時、私の指先からマッチ程度の小さな火が出た。

「うわっ!」

 私はパニックになってブンブンと手先を振り回してしまう。火は完成間近だったハンドタオルに移り、焦げて燃えて台無しになった。

「……」

 私を心配する先生と生徒たちに囲まれながら、焦げたハンドタオルをじっと見つめたのを今でも覚えている。お母さんのプレゼントさえこんな簡単なことで台無しにしてしまう。
 あぁ私は、普通じゃない。普通の人間じゃないんだ。


………

『不知火さんは人間だよ』

「っ!」

 そんな記憶を呼び起こしている中で、赤翼くんからもらった言葉が重なった。赤翼くんと初めて部室でピィちゃんの世話をした時に言われたこと。屈託のないその言葉。私の体質を見て、なおもそう答えた彼。
 その言葉がいったいどれだけ嬉しかったか。自分で自分を否定して、誰とも関わらない毎日に赤翼くんがどれだけの色をつけてくれたのか。
 私、赤翼くんにたくさんもらったのに何もできてない。

「はぁ…はぁ…」

 私の腕の中で衰弱する彼。このままではどっちにしろ炎で焼け死んでしまう。助けられなくてお別れなんてそんなのは嫌だ。

「赤翼くん!まだダメ、ダメだよ!謝らせてよ!ちゃんと友達に戻りたいよ!」

 行き場の無い感情が吐き出される。心の底から出た言葉と気持ち。
 赤翼くんを助けたい、赤翼くんに謝りたい。赤翼くんと友達になりたい。
 そんなたくさんの気持ちが大粒の涙になって私の頬を伝う。
 そして、赤翼くんの頬に私の涙がスっと落ちた。