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………
…
放課後、校舎の1階端の薄暗い場所。扉の上のプラカードには『生物・飼育準備室』と書かれた文字。ここはかつて生物・飼育部が部室として使用していた教室だ。
ガチャリ。
人がほとんど訪れない部室の扉を開く。古びたその教室の鍵はずっと壊れていて常に空きっぱなし。これなら無断利用されるのも仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…お?」
女性の感嘆の声が1つ、部室に響く。今日の部室には先客がいた。いや、今日というより正確に言えばほぼ毎日。
ヨレ気味の白衣を着た女性が飼育箱を抱えながらこちらを振り返る。黒髪ポニーテールで若めの先生だ。
「やぁ、赤翼くん。今日も来たのかい?」
「こんにちは、十鳥先生。というか先生こそ毎日いますよね?」
「ふふふっ、そうだね。私も案外暇なのかもしれない」
大人っぽく笑いながら、ウサギの入った飼育箱を机の上に置く。
十鳥 美羽先生は生物の先生で、今はなき生物・飼育部の顧問だった人だ。僕がここを見つけてから、彼女とは幾度も部室で顔を合わている。
先生は飼育部が無くなったことが寂しいようで、度々ここを訪れていた。そんな僕らが出会うのは必然。生き物好きの僕の話し相手になってくれていた。
「昨日はすごい台風だったでしょう?外にいた裏庭のウサギたちが心配で帰り際に部室に入れておいたんだよ」
「あ、なるほど。昨日はほんとに酷かったですもんね。生徒も強制的に帰らされましたし」
「ふふっ、そうだね。でも台風一過とはよく言ったものね。今日は昨日の嵐が嘘のように晴れてる」
「ですねぇ」
薄暗い部室から窓の外を見ると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「あっ、暇と言ったばかりだけど…そういえば職員会議があったんだ」
十鳥先生が腕時計を確認する。ピンクゴールドのカジュアルな時計。
「えっ、もうこんな時間!やばい!赤翼くんとお話したかったけどごめん!あ、ついでに申し訳ないんだけどウサギたちを裏庭に戻しておいてくれない?」
「はい、それくらいお易い御用ですよ」
本当にごめんね、という言葉を残して十鳥先生は部室から出ていった。
とてもフランクかつ優しい先生で、僕の生物談義も嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。翔と同じく僕と話してくれる数少ない存在。
そんな先生のパタパタと出ていく姿を見て、忙しい人だなぁと少し笑った。
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放課後、校舎の1階端の薄暗い場所。扉の上のプラカードには『生物・飼育準備室』と書かれた文字。ここはかつて生物・飼育部が部室として使用していた教室だ。
ガチャリ。
人がほとんど訪れない部室の扉を開く。古びたその教室の鍵はずっと壊れていて常に空きっぱなし。これなら無断利用されるのも仕方ないと自分に言い聞かせた。
「…お?」
女性の感嘆の声が1つ、部室に響く。今日の部室には先客がいた。いや、今日というより正確に言えばほぼ毎日。
ヨレ気味の白衣を着た女性が飼育箱を抱えながらこちらを振り返る。黒髪ポニーテールで若めの先生だ。
「やぁ、赤翼くん。今日も来たのかい?」
「こんにちは、十鳥先生。というか先生こそ毎日いますよね?」
「ふふふっ、そうだね。私も案外暇なのかもしれない」
大人っぽく笑いながら、ウサギの入った飼育箱を机の上に置く。
十鳥 美羽先生は生物の先生で、今はなき生物・飼育部の顧問だった人だ。僕がここを見つけてから、彼女とは幾度も部室で顔を合わている。
先生は飼育部が無くなったことが寂しいようで、度々ここを訪れていた。そんな僕らが出会うのは必然。生き物好きの僕の話し相手になってくれていた。
「昨日はすごい台風だったでしょう?外にいた裏庭のウサギたちが心配で帰り際に部室に入れておいたんだよ」
「あ、なるほど。昨日はほんとに酷かったですもんね。生徒も強制的に帰らされましたし」
「ふふっ、そうだね。でも台風一過とはよく言ったものね。今日は昨日の嵐が嘘のように晴れてる」
「ですねぇ」
薄暗い部室から窓の外を見ると、雲ひとつない青空が広がっていた。
「あっ、暇と言ったばかりだけど…そういえば職員会議があったんだ」
十鳥先生が腕時計を確認する。ピンクゴールドのカジュアルな時計。
「えっ、もうこんな時間!やばい!赤翼くんとお話したかったけどごめん!あ、ついでに申し訳ないんだけどウサギたちを裏庭に戻しておいてくれない?」
「はい、それくらいお易い御用ですよ」
本当にごめんね、という言葉を残して十鳥先生は部室から出ていった。
とてもフランクかつ優しい先生で、僕の生物談義も嫌な顔ひとつせず聞いてくれる。翔と同じく僕と話してくれる数少ない存在。
そんな先生のパタパタと出ていく姿を見て、忙しい人だなぁと少し笑った。