出せる範囲の早歩きで生駒くんたちの元へ辿り着く。

「おぉ」
「綺麗」

 山道が少し開かれて、綺麗な小川が目に入ってきた。
 川水は透き通っていて、時折魚がちゃぷんと音を立てて水面を跳ねる。サラサラと流れる川の水音が心地よい。
 雑誌や旅パンフレットでしか見た事ないような美しい自然の景色が私たち目に広がっていた。

「2人とも、こっちこっち」

 景色に魅入っていると、生駒くんが横から手招きをする。

「生駒くん、どうしたの?」
「いや、あそこ見てみて」

 生駒くんは人差し指を立てて、シーっとでも言うように声を忍ばせてある方向を指差す。

「ん?」
「木?」

 彼の指の先には川辺の傍らに生えた1本の木。青々と葉をつけるその木、焦げ茶色の枝の上に陽光でキラキラと輝く翡翠色の何かがいる。

「宝石みたい」

 思わずそう呟いてしまった。それほどまでに綺麗な生き物がいる。
 肉眼ではよく見えないが、チョコチョコと枝の上を動いている。

「2人とも、双眼鏡で見てみて」
「もしかして…」

 十鳥先生のその言葉に私たちは大人しく従う。赤翼くんはなにか気がついたようだ。

「綺麗な鳥…」

 双眼鏡で覗いた先、翡翠色の背と翼に橙色のお腹。体の割には長く鋭く黒い嘴。その小ささも相まって、まるで本物の宝石みたいだった。

「あれカワセミですよね?」
「うん、そうだよ」
「え、あれがそうなの?」

 私は思わず驚いた。
 カワセミ。名前とちょっとした姿くらいは教科書なんかで見た事はあった。でも実際見る彼らの姿はその教科書にあった写真の何倍も美かった。
 自分の目で見ることでこんなにも違って見えるんだと感動した。

「夏鳥ってわけじゃないんだけどね。この辺りは木々が多くあって涼しげだし、集まってきてるのかもしれないね」
「たしかに俺ここに来て暑さをそれほど強く感じないかも」
「そういえば僕も。ちょっと不思議」
「鳥たちにとってはいい環境なのかな?」
「不知火さん、いいこと言うねぇ!」

 十鳥先生がサムズアップしながらにっと笑う。褒められて少し照れた。
 でも、こうやって見る景色は本当に綺麗だ。
 今まで怪我しないようにいろんなことを避けて生きてきた。でも今はもっと行動していろいろ見てみたい、この山の景色を見てそう思えるようになった。