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「はぁ…はぁ…」

 ハイキングコースを渡ること数十分、私は息を切らしていた。
 山の麓の小屋で案内されたバードウォッチング用の山道。初心者用のあまり激しくない道だが、それでも運動してこなかった私にはきつい。

「不知火さん、大丈夫?」

 私の様子を見兼ねて、気まずさで今日まであまり会話らしい会話をしてこなかった赤翼くんが声をかけてくる。

「だ、大丈夫」
「不知火さーん!ゆっくりでいいからねー!」

 十鳥先生と生駒くんは少し先を歩いている。元気だなぁとそう思った。


「足、痛い?」
「痛くはない」
「そっか」
「うん」

 そんな途切れ途切れの会話が続く。

「……」
「……」

 黙ってゆっくりと山道を歩く2人の影。木漏れ日が私たちを照らし、数羽の鳥の鳴き声が緑に染入る。

「急がなきゃ…ね」

 なんとなくこの空間が気まずくてそう口にした。早いところ先生たちに追いつけばと思って。

「ゆっくりでいいよ?」
「普段運動してこなかったからこういう道疲れやすいけど、迷惑かけられない」

 そう言うと赤翼くんは思い返す素振りを見せた。

「そういえば前に一緒に走った時も僕より疲れてたもんね」
「放送室から出た時のこと?あの時は赤翼くんに引っ張られたのもあるし」
「だって不知火さんってば部長さんに脅されてワタワタしてるから」
「そういう赤翼くんだってアポ無しで突撃したり破天荒だったじゃん」
「でも着いてきてくれたじゃん?」
「ピィちゃんを助けたくないの?なんて言うから!」

 そこまで話してはっと気づく。今私たちいつも通り話せてた。まるであの時の口喧嘩なんてなかったかのように。

「……」
「……」

 赤翼くんもそれに気がついたようで、少し頬を赤らめて目を逸らす。

「あ、あのさ」
「うん…」
「先週のことなんだけど──」
「おーい!2人ともー!早くこっち来て!」

 赤翼くんがなにか言おうとすると、遥か先を進んで小さく見える生駒くんが手を振りながら私たちを呼んだ。
 気づけば随分2人と距離が離れてしまっている。

「…いこっか、不知火さん」
「うん、そうだね」

 私たちの間を渦巻く気まずさは、自然豊かな緑に充てられて緩やかになりつつあった。