「じゃあ皆、籠開けるよー?」
「はい」
「了解です!」
「よろしくお願いします!」

 私たち3人、各々の返事をする。十鳥先生はそれを聞いて小さく頷き、カチャンと音を立てて扉を開いた。

「ピッ…ピィ?」

 少しだけ前のめりになるピィちゃん。

「せーの!」

 その様子を見て生駒くんが音頭を取る。

「「「ピィちゃん!」」」

 掛け声に合わせて私たち3人はピィちゃんを呼んだ。

「ピッ!キュウッ!」

 可愛らしく鳴き、さらに前のめりになる。翼を羽ばたかせるも、向かって右側の翼の動きがぎこちない。

「あぁ…」
「まだだめ?」
「3人とも、呼び続けてあげて!親鳥もこんな時一生懸命鳴いてるの!」

 十鳥先生にそう言われて私たち3人は顔を見合わせて頷いた。

「ピィちゃん!」
「こっちおいで!」
「もう少し…」

 各々声を出す。夏の部室に3人の声が木霊する。

「ピィちゃん、飛んできたら俺がご飯…虫餌をあげる!」

 生駒くんがそう言って私と赤翼くんにもニッと笑った。まるで私たちも何か!と言わんばかりに。

「じ、じゃあ僕はお肉!」
「わ、私はフルーツ?」

 なんかいいな、こういうの。ちょっと楽しくなってきた。

「ピィ!」

 私たちの言葉を聞いてより早く翼を羽ばたかせた。必死に、もがくように。

「あぁ!もうちょっと!」
「頑張れ!」

 声に合わせてピィちゃんは何度も翼を動かす。

「頑張れ…あっ!」
「ピィッ!!」

 私が願うように声を絞り出すと、止まり木を強く蹴ってピィちゃんが籠から飛び出した。

「よしっ!」
「飛んだっ!」

 ぎこちなく翼を動かし、こっちに向かって飛び出してくる。部室の空気を翼で押し、体を宙に浮かせてフラフラと。
 羽ばたきの回数も多く、リズムは悪い。それでも私たちの声の方へ一生懸命飛んできてくれる。
 その姿はとても愛らしかった。


「ピッ…ピィ…ピィッ!」

 しかしそれは一瞬の出来事。ぎこちない動きでは飛びきれるはずもなかった。

「…あっ!」

 赤翼くんの声と同時に、ヒューッと床に落ちていくピィちゃん。

「ピキュッ!」

 そしてクッションとダンボールの間にポテッと落ちてしまった。