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 女子トイレ、適当な個室に入り教科書を拭く。

「やっぱりダメ…」

 持ってきたハンドタオルで適当に拭くだけでは水を吸収した紙を乾かすには至らない。

「トイレットペーパーで」

 乾いた紙で水を吸い上げるといいと聞いたことがある。もったいないけどトイレットペーパーを出して1枚1枚教科書のページに挟んでいく。
 普段から怪我をするような遊びをせず、引きこもりをしていただけあって、こういう謎な知識ばかりは増えていた。今ばっかりは皆が思い描くような青春をしてこなかった自分に感謝だ。

「……」

 でもこれどれくらいかかるのだろう。きっとすぐには終わらない。朝のホームルーム始まっちゃうし、いつまでもここで乾くの待っていられるわけでもない。
 
「きゃははは」
「あー、まじウケる」

 授業まで教科書をどこかに放置すれば…と思っていると、嫌な笑い声とともに女子トイレに数人入ってくる気配を感じた。

「っ!」

 私はなんとなく声を押し殺した。この声は羽折さんたち達のものだった。

「必死な顔して教室から出て言っちゃってさー」
「えー、まじそれな?」

 どうやら私のことを言っているらしい。怒りがふつふつと湧いてきたが抑える。数人の足音がトイレ内に響く。

「ね、まじウケるよね?不知火さん?」
「っ!」

 そんな声とともに、私の入っている個室の前で足音が止まった。

「教科書、濡れちゃったんだよね?」
「なんでだろうね?雨でも降ったのかな?」
「教室の中に?」
「まじありえないっしょ!」
「くっ」

 悔しい。というかまず意味がわからない。こんなことをしても何も変わらないのに。
 人間はこうも汚く群れる生き物なのだろうか?他者を排除してきて今の彼女たちがある、また愚かしく見えた。