小学生の頃に起きた裁縫の事件以来、まともな人間関係を構築してこなかった私でも今のこの状況を理解するのは容易だった。
 生駒くんの近くにいる彼女たちは私の存在が気に食わないのだ。女の子の集団は怖いとはよく聞く。
 足並みは揃え、抜けがけは禁止。けれども相手に隙が見つかれば我先にと飛びつき、出し抜き、喰らう。それはまるで空から獲物を狙う鳥の群れのよう。
 それは作り話だけの中の話。現実の女の子たちはそんなに恐ろしくはない。
 現実になるなど、ついぞ思いもしなかった。

「てかさ、普通に私らより仲良さげなの普通にありえなくない?」

 ありえないことだろうか?たしかに最近の放課後は生駒くんともいることが多い。ただその場には赤翼くんも一緒だ。

「ねぇ、みんな?」
「それな?」
「わかるー」

 たぶん羽折さんがリーダー的な立ち位置なんだろうな。彼女が同調の声をかけると皆が反応する。
 孤独で生まれて孤独に生きる不死鳥とは違って人は群れなきゃ生きれない生き物だ。その同調は私の眼には愚かしく見えた。
 とは言え、心の中では強がっているものの複数人で囲まれると普通に怖い。
 自分の味方をしてくれる人がいない状況。独りは心細く、寂しく、恐ろしい。

「翔くんから聞いたんだけどさー、不知火さんたちって外にいた鳥を連れ込んでるわけでしょ?普通に気持ち悪くない?病気とか持ってそうじゃん。体育とか休むのにそれは平気なんだー」
「っ!」

 私のことは正直どれだけ言われてもいいが、ピィちゃんのことを悪く言われるのは嫌だ。

「そんなことない!」
「どうだか?てか餌付けとかしてるんでしょ?変な病気とか持ち込まないでよー?」

 今までの物言いも物言いだが、この一言は流石にカチンときた。怪我していて保護しただけなのに、そんな風に悪く言われるのは心外だ。

「てかぶっちゃけ退部したら?あ、でもそしたら部活なくなっちゃうか?でもよくね?翔くん自由になるし」

 黙って聞いていればつらつらと!自分の口元が少し引き攣るのがわかった。
 退部したら部活がなくなって、ピィちゃんも守れなくなって、赤翼くんたちとの楽しい時間もなくなっちゃう。
 それだけは嫌だ。轟々とした炎のように黒いなにかが沸きあがる。

「ま、それはいいや。ともかくさ、翔くんとはこれ以上──」
「あのさ!」

 私が大切にしてるものまで奪おうなんて。怒りの衝動は抑さまらず、言葉になる。

「別に私はあなたたちと違って生駒くんに気に入られようと必死なわけじゃないから」

 嫌味が口をついて出た。