「え、あの!不知火さん?」
「……」

 さっきまでの反応はどこへやら。思わず面食らってしまう。
 不知火さんは僕の問いには答えず、静かに自席からお弁当を取り出した。そして何食わぬ顔で立ち去ろうとする。

「ま、待って!」

 僕は思わず不知火さんを呼び止めた。一瞬の時間で頭をフル回転させる。
 不知火さんの興味が失せた理由はわからない。だけど彼女の表情は安堵と憂いを帯びているような気がした。

「……」
「か、確証はないけど、僕は不死鳥はいると思うよ!」

 僕の制止を振り払い、彼女は歩みを止めることなく去ろうとする背中に向けて。なんとなく…パッと今思いついたことをぶつけてみた。

「……」

 それを聞いて彼女は僅かに足を止める。

「もし興味があるなら放課後1階の──」
「どうでもいい。興味なんてない」

 しかしそんな誘いも虚しく、彼女は顔も向けずに即答した。去り際に一瞬不安そうな横顔を覗かせて。

「あっ」

 そのまま彼女は教室から出て行ってしまった。教室の喧騒が僕を虚しく包む。彼女が出ていった扉をぼーっと見つめた。
 それならどうしてあんなにも食いついたんだろうか。
 僕の足りない対人スキルでは、考えてもわからなかった。