………


「……」

 少し時間があったのでお手洗いを済ませた。
 ピィちゃんにご飯を上げた後、手は洗ったのだが、念入りに洗って損は無い。

「ふぅ」
「不知火さん!」
「ん?」

 ハンカチで手を拭きながら女子トイレから出ると女の子から声をかけられる。声の先には羽折さんと数人の女の子がいた。
 さっき生駒くんと話してた子たちだ。

「ちょっと今大丈夫?」
「うん」

 なんだろう?と思う暇もなく、彼女たちは私を連れてスタスタと歩き始めた。それは有無を言わせぬ雰囲気があった。


………


 1階から2階に伸びる上り階段を登らされる。踊り場に差し掛かり、女子たちは止まった。

「不知火さんさ、翔くんと仲良いよね?」

 羽折さんがキツそうな笑顔で私に尋ねてくる。その笑顔はどこか違和感を感じる表情。

「いや、普通だと思うけど」

 仲がいいとはまた違う感じ。なんなら部活が始まったここ1,2週間で話すようになったくらいだ。

「でも同じ部活だしー?他にも誰だっけ?もう1人いたよね?」
「赤翼くん?」
「あー、そうそうUMAくんねー」

 なんだか彼を小馬鹿にするような物言い。少しばかりその声色にイラッときた。
 赤翼くんは知識もあっていい人だ。

「男の子2人の部活に不知火さん1人だよね。女の子1人だし私なら無理かなー、すごいよ!」
「……」
「それに私、絶対餌とか触るの無理だもん!ねぇ?みんな?」
「わかる」
「私も無理かもー」
「は、はぁ」

 さっきから妙に棘のある嫌な言い方。彼女たちの顔は笑ってはいるけれど、針のような視線と声が方々から刺さる。

「えっと、私になにか」
「あーね、そうだよね。んーとね」

 彼女は気の強そうな表情を抑えて、一瞬考える素振りを見せる。
 可愛らしくかつ思慮深く見えるようなその素振りは、本当に何か考えているのか。それとも染み付いたアピールのための仕草か。
 やがて彼女がゆっくりと口を開く。

「不知火さんさー、あんまりその気がないなら翔くんと絡まない方がいいんじゃない?」

 この状況と嫌な物言いの理由、その双方を理解出来てしまう言葉。踊り場を漂う夏の空気が、ピンと張りつめた。