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 翌日の放課後。風邪が治って登校してきた不知火さん。僕と翔、不知火さんの3人で部室に集まる。

「ピィ!」

 ピィちゃんが嬉しそうに鳴いた。

「し、不知火さん?」
「……」

 しかし不知火さんはムスッとして黙ったまま。今日一日、なぜかずっとそうだ。

「有真、昨日なんかしたのか?」
「え?いや?してないけど」

 お見舞いに行ったくらい。強いていえば不知火さんのお母さんと少し仲良くなったくらいか?
 切れ長の二重瞼を細めて、ジト目で僕を見つめてくる。
 
「見たでしょ?昨日」

 不知火さんがついに口を開く。

「え?み、見たって何を?」

 まさか昨日のあの熱気を出す体質のこと?いや、この場にはまだ翔が!

「な、なにも?ちょっと様子を見ただけで」

 自らバラすような発言に戸惑いつつ、目を逸らして取り繕う。

「やっぱ見たんじゃん!」
「見た?なにを?」
「ピィ?」

 不知火さんが少し大きく声を出し、翔と傍にいたピィちゃんもそれに反応する。
 万事休す。というかバラしていいのか?これは覚悟を決めるべきなのか?

「実は昨日、不知火さんの部屋で」
「最低。勝手に上がって部屋とか寝てる姿とか見るとか」
「…え?」
「お母さんから聞いたの!昨日お見舞いに来てくれたって…その時寝てたからちょっと顔見せたよって!」

 いや、そんなこと?僕はてっきりすべてを話すもんだと。

「私が熱で苦しんでる間に!部屋とか汚かったし、髪もグチャグチャだっただろうし、そもそも部屋着のままだったし!なんでそんな恥ずかしい姿見せなきゃいけないわけ!?」

 頬を染めてそっぽを向く。

「有真、黙って女の子の寝顔を覗くのはさすがによくないんじゃ…」
「だ、黙ってじゃない!言い方!僕は不知火さんのお母さんの許可の元──」
「私は許可してない!」
「そりゃそうでしょ!苦しそうに寝てたし!」

 でもたしかに女の子の部屋に無断で上がったことになるのか。ぱっと見の非はこちらにある。
 …いや、あるか?

「……」

 弁明しつつも、怒る彼女を見て少しだけ嬉しく思った。年相応な部分を気にする彼女の姿は、不死鳥の混血であることを微塵も感じさせない。普通の女の子そのもの。
 やっぱり彼女はぶっきらぼうで無関心な冷たい子ではなかった。

「理不尽!納得いかない!謝って!」
「ご、ごめん?」
「お返しに有真の間抜けな寝顔でも見せたら?」

 どうして僕の寝顔が間抜けな前提なんだ。凛々しい可能性もあるだろうに。…ないか。

「ピィピィ!」

 ピィちゃんまで面白がって囃し立てるように鳴く。3人と1羽の部室はワイワイとした盛り上がった。
 こうやってみんなで楽しく笑ったの、周りに遠巻きに見られるようになってからなかったな。いったいどれくらいぶりなんだろう。
 熱が下がった安心もある。それと同時に、先週まで考えられなかった不知火さんの自然な笑顔を見れて嬉しい。
 不知火さんが自分という人間を嫌いにならないように。思わせる暇もないほど、僕もこの青春の一幕を一緒に楽しもうと思った。