「でもね、さっきも言ったけど最近少しだけ明るい雛子を見てね!」

 不知火さんのお母さんにパッと笑顔が咲く。親心というものだろうか。その言葉と表情はとても嬉しそうに感じる。

「前はつまらなさそうに登校して帰ってくる、それだけだったのに今はちょっと違うの。きっと有真くんのおかげだわ」
「いえ!そんな僕はなにも…」
「ううん、あなたが優しい人だって今日見ててわかったから。たぶんそう」

 優しいと言われて少し照れる。目線を外した先、アイスティーがキラキラ輝いていた。

「だからこれからも雛子と仲良くして欲しいの。私たちの血筋とかを抜きにして、1人の人間として見てあげてほしい」

 そんな僕の目線は彼女の柔らかな、でもどこか懇願するような言葉で戻される。

「はい、もちろんです。不死鳥と聞いて本音を言えば驚きました。でも雛子さんのことを人じゃないと思ったことはありません」
「本当?」
「はい。雛子さんが許してくれる限り、こちらこそ仲良くさせていただきたいです」

 これは僕の本心だった。不知火さんは優しい人だ。ピィちゃんを助けようと必死なところとか、意外と無邪気に笑うところとか、そんな姿を僕は知った。
 生き物を…命を大切に思える人。そんな人が僕は人として好きだ。
 だから不知火さんとは仲良くしていきたい。今はこの気持ちが一番しっくりきた。

「本当に優しい人で安心したわ」
「いえ、普通ですよ。きっと僕以外もみんなこうです」
「ふふっ、私も昔いろいろあったから。有真さんのような人が少ないのは知ってるわ」

 閑話休題とでも言うように微笑み、彼女はアイスティーをかき混ぜた。

「そういえば聞けていませんでしたが、お母様が…?不死鳥の血筋なのですか?」
「えぇ。……ほらこの通り」

 そう言ってぱっと爪で手のひらを傷つける。ボヤ程度の火を出してすぐに傷が治った。

「い、痛くないんですか!?」
「ふふっ、痛みにも多少は強いのよ?大人だと火をコントロールできるから出したり出さなかったり自由にできるの。炎を出さなければ治る速度は普通の人間と同じくらいだし、逆に出せば大抵の傷は一瞬で治るわ」

 本当に一瞬で治るんだ。1回見ただけだったのであらためて驚き直す。それはどこか生命の神秘を感じた。
 僕の思いを受け流すようにアイスティーを飲む不知火さんのお母さんは、余裕そうな表情をしていた。