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「ごめんなさい、紅茶しかなくて」
「いえ、全然…」

 目の前に琥珀色のアイスティーが置かれる。紅茶のいい香りがリビングに広がった。

「本当に気になさらないでください。風邪は有真さんのせいではないんです。外傷に強い分なのかどうかわかりませんが、私たちは少しだけ病気にかかりやすいんです」
「そうなのですか?」
「えぇ。ほとんどを炎の熱と共に治してしまうので。よくあることです」

 僕の向かいの席に座りながらそう話し、不知火さんのお母さんは優しく微笑んでくれた。
 彼女に対する病弱という噂はあながち間違いではなかったようだ。

「もしまだ気が晴れないようでしたら、贖罪としてって言うのも変な話ですけど、1つだけお願いしてもいいかしら?」

 そんな僕の表情を見て、今までの敬語をやめて少し砕けた口調で話すお母さん。

「…!はいっ!」

 気を遣わせてしまった感も否めないが、それでも気が晴れなかった自分としてはぜひとも応えさせて欲しいと思った。

「雛子とこれからも仲良くして貰える?」
「え…?」

 それは少し意外な一言だった。カランと音を立ててアイスティーの氷が溶ける。

「あの子、小さな頃人前で怪我をしてしまってたことが原因であまり人と関わらなくなってしまったの」
「怪我…」

 そう言われてまず思い浮かんだのはつい先週の裏庭での出来事。
 同じようなことが前にも…?不知火さんが誰とも関わらない理由のその一端。

「小学生の頃は体育を休む以外は普通に元気に過ごしていたのだけれど、ある日の家庭科の授業中にね」

 不知火さんのお母さんは砕けた口調のまま昔話を始める。

「裁縫の授業だったんだけど、雛子が縫い針で指を刺しちゃって。ほんとちっちゃな怪我なのよ?でも幼かった雛子の体が反応して指先からマッチみたいな小さな炎が」

 容易に想像がつく。僕があの時と見たものと同じ。不慮の事故による反応。

「幸い、家庭科室だったおかげで、火元とかはあったからバレることはなかったけど。自分が他の子たちとは違うってはっきりと自覚しちゃったみたい」
「…周りと違う」
「そこから塞ぎ込むように静かな子になっちゃったの」

 無理もない。だけどその言葉で片付けてしまうにはあまりにも心無い。今まで隠してきた先祖の生き方が全部自分のせいでバレてしまうとなると。
 もし自分が逆の立場なら、同じように静かに過ごすようになるかもしれない。