………
…
「雛子、入っていいかしら?」
「……」
不知火さんの部屋の前まで通される。コンコンとノックをして尋ねるも、中から返事は聞こえない。
「眠ってしまってるかしら」
「今日のところは出直しましょうか」
「いえ、私たちの体質について少し知っておいてほしいんです。入りましょう」
「え…」
そうしてお母さんは躊躇なく不知火さんの部屋の扉を開く。年頃の子供の部屋を勝手に開けるのはいかがなものかと思ったが、開いた扉の先でその考えは消し飛んだ。
「あっつ…」
まず感じたのはものすごい熱気。サウナかと思うほどの暑さ。そして奥のベットで横たわる不知火さんの姿が目に入った。
眠る彼女の周りの空気が揺らめいている。それはまるで真夏の日差しが降り注ぐアスファルトの陽炎のように。
「っ…はぁ」
彼女の荒い息使いに呼応して、ジューっと言う蒸気の音が聞こえる。額に浮かんだ彼女の汗が、瞬く間に蒸発して干上がっていく。
明らかに普通の人間とは違う、風邪の熱ではなかった。
「これは…?」
「私たちは傷を負うと炎と共に再生するんです。それは病気も同じで、熱を発して治そうとするんです。それも普通の熱ではなく、炎のような…」
部屋を満たす灼熱の熱波。それこそ汗がすぐに蒸発してしまうほどの熱を発する不知火さんを見て不安になる。
「本当にごめんなさい…」
そして頭を支配したのは罪悪感だった。こうなった原因の一端は自分にある。
「いえ、有真さんのせいでは。この調子なら明日には良くなるかと思います」
彼女の言葉に幾分か救われたが、やはり罪悪感は拭いきれない。
あの日見た炎、不知火さんは抑えるのでも苦しそうに呻いていた。それが内側からともなれば、彼女の身体的負担は想像を絶する。
「…熱くはないのですか?」
「炎を纏って再生するので、皮膚や骨などの組織は耐火性に優れているんですけど、熱さに鈍感なわけでは…」
「ということは…」
不知火さんのお母さんが静かに頷いた。きっと今、熱くて苦しいに違いない。
本当に僕のせいで…。
「……」
僕は黙って彼女のベッドに向かい、そのまま傍らに腰を落とした。傍に寄ることでその膨大な熱量を濃く感じる。まるで燃え盛る火中にいるかのよう。
「はぁ…」
苦しそうな焔色の寝息が彼女から1つ。熱を帯びた空気に溶けこむ。
彼女と過ごしてそれほど日は経っていない。苦しそうな姿や異常な状態を見て、あらためて彼女の抱える問題を理解する。
きっと他にも彼女は、人の世で過ごすには不便とも言える身体的な問題を多く抱えているのだろう。
「……」
僕はそんな彼女になにかできるだろうか?時たま見せる彼女の柔らかな笑顔を思い浮かべて、そんな風に思った。
「…有真さん」
「あ…はい!」
物思いに耽っていると不知火さんのお母さんから声がかかる。
「リビングで少しお話しませんか?」
「え…」
僕の様子を見兼ねたのか、不知火さんのお母さんは微笑んでくれた。
「……」
ベッドの傍から立ち上がり、彼女をもう一度見る。その寝顔はさっきよりも少しだけ、楽になったような顔をしていた。
…
「雛子、入っていいかしら?」
「……」
不知火さんの部屋の前まで通される。コンコンとノックをして尋ねるも、中から返事は聞こえない。
「眠ってしまってるかしら」
「今日のところは出直しましょうか」
「いえ、私たちの体質について少し知っておいてほしいんです。入りましょう」
「え…」
そうしてお母さんは躊躇なく不知火さんの部屋の扉を開く。年頃の子供の部屋を勝手に開けるのはいかがなものかと思ったが、開いた扉の先でその考えは消し飛んだ。
「あっつ…」
まず感じたのはものすごい熱気。サウナかと思うほどの暑さ。そして奥のベットで横たわる不知火さんの姿が目に入った。
眠る彼女の周りの空気が揺らめいている。それはまるで真夏の日差しが降り注ぐアスファルトの陽炎のように。
「っ…はぁ」
彼女の荒い息使いに呼応して、ジューっと言う蒸気の音が聞こえる。額に浮かんだ彼女の汗が、瞬く間に蒸発して干上がっていく。
明らかに普通の人間とは違う、風邪の熱ではなかった。
「これは…?」
「私たちは傷を負うと炎と共に再生するんです。それは病気も同じで、熱を発して治そうとするんです。それも普通の熱ではなく、炎のような…」
部屋を満たす灼熱の熱波。それこそ汗がすぐに蒸発してしまうほどの熱を発する不知火さんを見て不安になる。
「本当にごめんなさい…」
そして頭を支配したのは罪悪感だった。こうなった原因の一端は自分にある。
「いえ、有真さんのせいでは。この調子なら明日には良くなるかと思います」
彼女の言葉に幾分か救われたが、やはり罪悪感は拭いきれない。
あの日見た炎、不知火さんは抑えるのでも苦しそうに呻いていた。それが内側からともなれば、彼女の身体的負担は想像を絶する。
「…熱くはないのですか?」
「炎を纏って再生するので、皮膚や骨などの組織は耐火性に優れているんですけど、熱さに鈍感なわけでは…」
「ということは…」
不知火さんのお母さんが静かに頷いた。きっと今、熱くて苦しいに違いない。
本当に僕のせいで…。
「……」
僕は黙って彼女のベッドに向かい、そのまま傍らに腰を落とした。傍に寄ることでその膨大な熱量を濃く感じる。まるで燃え盛る火中にいるかのよう。
「はぁ…」
苦しそうな焔色の寝息が彼女から1つ。熱を帯びた空気に溶けこむ。
彼女と過ごしてそれほど日は経っていない。苦しそうな姿や異常な状態を見て、あらためて彼女の抱える問題を理解する。
きっと他にも彼女は、人の世で過ごすには不便とも言える身体的な問題を多く抱えているのだろう。
「……」
僕はそんな彼女になにかできるだろうか?時たま見せる彼女の柔らかな笑顔を思い浮かべて、そんな風に思った。
「…有真さん」
「あ…はい!」
物思いに耽っていると不知火さんのお母さんから声がかかる。
「リビングで少しお話しませんか?」
「え…」
僕の様子を見兼ねたのか、不知火さんのお母さんは微笑んでくれた。
「……」
ベッドの傍から立ち上がり、彼女をもう一度見る。その寝顔はさっきよりも少しだけ、楽になったような顔をしていた。