「あの…雛子のこと、何か知っていますか?」
「え?」

 唐突にお母さんがそう振ってくる。距離を感じていたばかりだったので少し戸惑う。

「いえ、なんでも。すみません」

 聞き返すもお母さんはすぐに言葉を引っ込めてしまった。僕はこうなった時サッとした反応ができない。人付き合い経験の薄さが少し仇となった。

「雛子が最近明るかったのと、部活動する友人ができたのが久しぶりなものですから」

 不死鳥の件がなければ僕も彼女と関わりはなかっただろう。そういう意味では今までの人を寄せ付けない態度は一族の問題とも言える。
 警戒していたのもそういうことだ。僕がそれを知っているのか?それとも知らないのか?

「…実は雛子さんの体質のこと、知っています」
「…!それって?」
「大きい声では言えませんが…不死鳥の子供を拾ってしまったんです。その時に偶然…」
「あ、そ、そうですか」

 明らかに動揺を見せる不知火さんのお母さん。
 今まで隠してきた一族のことが、年端もいかない学生から聞かされたらこんな反応にもなるだろう。

「誰かに他言は…」
「もちろんしてません。雛子さんに迷惑がかかることなので。お母様も含めていろんな方が傷つくと思うと、僕にはとても誰かに言うなんてできませんでした」
「…お優しいのですね」
「そ、そうでしょうか?」

 たぶん普通だと思う。

「…雛子の様子、見ていきますか?ほんの少し驚かれるかもしれませんが」
「あ、ぜひお見舞させてください!風邪の原因は自分かもしれなくて…」
「雛子の事情を知っているのであれば大丈夫です。心配だなんて、やっぱりお優しい方です」

 そう言ってクスッと笑った顔は、時々見れる不知火さんの笑顔とそっくりだった。