「ふ、不老不死の定義にもよるんだけど、若返る生き物は存在するよ」
「は?若返る?」
「うん、老いたら幼体にまで戻る生物」
「そ、それって!?」

 またも不知火さんが身を乗り出してきた。吐息がかかりそうなほど距離が縮む。

「…っ」

 彼女の白い肌と美しい瞳が視界いっぱいに写り込む。普段全く話したことはないが、その整った顔立ちに思わずドキドキしてしまった。


「幼体に戻るってなんだ?転生する的な?」
「ま、まぁ。近いね」

 翔の発言に、僕は2つの意味で近いと答えた。
 離れてくれないところを見ると、どうやら不知火さんには届かなかったみたい。

「なんだそれ。それじゃまるで──」
「不死鳥」

 翔の言葉を遮るようにボソッと小さく不知火さんが呟く。

「不死鳥が…この世にいるって言うの!?」
「ぼ、僕が言ってるのは不死鳥のことじゃないよ」

 なぜか動揺した様子の彼女。仮に不死鳥がいると知ったら、僕は興奮でぶっ倒れてしまうかもしれない。

「…え?」

 僕の回答を聞いた瞬間、彼女はポカンと口を開けてしまった。
 もしかして…不知火さんも生物のロマンに興味があるのだろうか?だとしたら良い友達になれるかもしれない!
 同士を見つけた気がして気分が高まる。

「僕が言ってるのはクラゲだよ。『ベニクラゲ』って言うクラゲのこと!」
「…クラゲ?」
「うん、クラゲ。ベニクラゲは老いるとその体をポリプって言う幼体の状態まで戻せるんだ。やってることは人間が赤ちゃんの状態に戻るのと同じ意味なんだよ!」

 生き物のロマンを語り合えるいい仲間ができるかもしれないと思うと、口の滑りもよくなってくる。知識の引き出しを最大限展開するため、僕はさらに饒舌に語り始めた。

「だから、不老という意味だけに絞ればベニクラゲは永遠に生きられるんだ!」
「……」
「それにね、ベニクラゲは自分のクローンを作ることも出来て──」
「そう」
「それで──あっ、えっ!?」

 僕の話が乗ってきた瞬間、近かった彼女の可愛らしい顔がパッと離れる。離れた彼女の表情は、いつもの無愛想な雰囲気を醸し出していた。