「え?」
「ん?」

 僕らは音の鳴った方へ目を向ける。
 少し吊り上がった琥珀色の瞳。艶のある薄い茶髪。色白で少し幼く整った顔立ち。
 そんな隣の席の女の子、不知火さんが驚いた表情でこちらを見ていた。綺麗な瞳を丸くして、潤んだ唇をポカンと開けている。彼女の白い額には冷や汗が滲んでいた。

「不知火さん、どうしたの?」

 翔が不思議そうに尋ねる。
 隣が普通の女の子ならおそらく物音になど気にもとめなかっただろう。しかし相手はあの不知火雛子さんだ。
 先にも言ったが、彼女は無愛想でミステリアスなクラスメイト。学年クラス問わず誰とも関わったことがなく、友人と呼べる存在と一緒にいるところを見た事がない。ある意味で、翔がいない時の僕と似たもの同士。また、なぜか体育は必ず見学しているらしい。彼女の色白な容姿も相まって一部では、病弱で生きることを諦めているんじゃないか?なんて噂まで立っているという。
 そんな彼女の焦ったような姿を見たのは、この高校で僕らが初めてなんじゃないだろうか?

「…どういうこと?」
「え?」
「不老不死の生き物なんて…い、いるわけないじゃない」
「いや、いるんだよ?」
「ど、どんな生き物よ!」

 その言葉と同じ勢いで、彼女が隣の席からずいっと身を乗り出す。僕は思わず息を飲んでのけ反った。
 少し高めで大きな声。澄んだ鳥の囀りのような高音。そんな彼女の声すら、僕らは授業中以外耳にしたことはない。

「…でもたしかに、不老不死の生き物なんているわけなくね?どんな生き物なんだ?」

 突然、冷静になった翔が会話を繋ぐ。翔は今まで無反応だった子の突然の態度より、僕の発言の方が気になり始めた様子。
 目と鼻の先まで近づいている不知火さんも僕をまっすぐ見ている。話せと言わんばかりの圧力。その表情は怪訝そうなものだったが、なぜか不安そうにも見えた。