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「不知火さん、動物好きなの?」
「…普通。貴方ほどじゃない」
「そ、そっか」
「ピィ!」

 しばらく部室で2人と1羽で雑談をする。と言っても、こういう普通の会話ではあんまり反応が良くない不知火さん。会話が全然もたない。
 不死鳥の子関係の話でないと、心の距離を置いている感じがする。言っても彼女からしたら僕は秘密がバレた厄介な存在。ある程度は仕方ないけど…せっかくだし仲良くなりたいな。

「不知火さん、僕の名前わかる?」
「わかるけど…なんで?」
「なんか昨日から貴方って呼んでくるからさ。よかったら苗字とか名前とかで呼んで欲しいなーなんて」

 不知火さんはジト目でこちらを見つめる。僕の真意を読み取ろうとする怪訝な表情。僕が抱えているのは純粋な仲良くなりたいという気持ち。でも名前を呼んで欲しいって言うのはいきなり馴れ馴れしかっただろうか?

「あのさ、もっと気になることあるでしょ」

 不知火さんがジト目を抑えて、意を決したように言葉にする。昨日知られてしまった件を掘り返すことは、彼女にとって勇気がいることだろう。

「またそれ?いや、不知火さんの体については話したくないならそれでいいと思うし、こっちも根掘り葉掘り聞かないよ」
「普通知りたがると思うんだけど。貴方みたいな生き物好きな人は特に」
「まぁ、本音はそりゃあ…でもまずは友達になってからかなって」
「は?」

 言葉の意味がわからないという表情をする。

「だってなんでもない人に自分のこと話さないよね」
「私、半人半鳥だよ?こんな人間としても不死鳥としても中途半端な私と友達になるの?」
「いや、不知火さんは人間でしょ」
「半分ね?」
「生物学的にはそうかもだけど。不知火さんはクラスメイトだし、普通に人間だと思う」

 呆気に取られる不知火さん。
 種がどうとかじゃなくて、不知火さん個人は何者か?それは今日まで見せてくれた。責任感が強いところも、ふとした笑顔も、生き物をかわいそうだと思える心も。それら全て、彼女が人間である証だと僕は思う。

「…ほんと変な人だね」
「あ、また今変な人って…」

 本日2度目のディス。悲しみを表現しようと口を開くも、彼女を見て言葉に詰まった。
 少しだけ赤く染った頬。気持ちを抑え込むような口元の緩み。落ちた目尻は安心や嬉しさが見える。さっきのはしゃいだ笑顔に似た、フッと心から漏れた表情に見える。

「……」

 微笑みに近いそれに…僕の心はほんの少し奪われた。

「うん。赤翼くんは変な人」
「あっ…」

 初めて彼女に苗字を呼ばれる。少し近づけたのだろうか?それならば…嬉しい。