「こ、これから不知火さんはどうするの?」
「人の口に戸は立てられない。今聞いた話をどう扱うかは貴方次第。でもバレたからには…怖いし…もうこの辺りからはいなくなると思う」
「転校ってこと!?」
「それだけで済めばいいけど」

 世界中の誰もがどんなことでも拡散できるこの時代。こんな珍しくて誰もが飛びつきそうなネタ、僕の発言1つでどうとでもなるだろう。もしかしたら、不知火さんたちがまともに生きられなくなるかもしれない。

「…ピィ」

 悲しそうに不死鳥が鳴いた。この子も無関係じゃない。僕の対応次第では捕獲されるかもしれない。

「絶対に誰にも言わない」

 そんなのはあまりにも自分勝手だ。そんな思いを込めて僕はつぶやいた。

「どうだか。貴方は生き物のロマンがなによりも好きなんでしょ?私たちのことを語れば、世界の解明できてない生物の謎がまた1つ進展する。それなら──」
「そこまでするつもりなんてない!」
「っ!」
「ピッ!」

 少し声を大きくあげてしまう。ビクッと体を震わせる不知火さんと不死鳥の子。

「そんなの…誰も望んでない…」

 いくら解明したい謎があってもそれで傷つく人が出てしまうのならやるべきじゃない。人類の進歩のためなら犠牲も厭わない方が良いのだろうが、それが僕には出来なかった。

「本当に?」
「え?」
「本当に誰にも言わないの?」

 僕の語気を受けて、不知火さんが恐る恐る尋ねる。

「うん、当然だよ」
「……」

 驚いた様子の不知火さんの目をまっすぐと見て答える。

「ど、どうして?」
「不知火さんもこの子も傷つけることが僕にはできないから」

 これが僕の本心だった。僕は一人の人間として傷つけることなく生き物を大切にしたい。

「…!」

 心の底から意外だという表情をする不知火さん。数回瞬きをし、目を泳がせる。

「…ありがと」

 そして小さく小さく呟いた。そっぽを向いてそう呟く彼女の頬はほんの少しだけ赤く染っていた。