「ねぇ…」
「…ん?ど、どうしたの?」

 僕がウンウンと唸っていると不知火さんから声がかかる。少し遠慮がちな小さな声だった。

「……」

 しかし声はかけられたものの、彼女は口を開いたり閉じたり、言い淀んでいる様子。

「なにも聞かないの?…さっきのこととか」

 さっきの、すなわち先の炎と傷の件だろう。
 怪我をした途端に炎が噴き出したこと。その炎と共に傷が癒えたこと。思い返せば不思議なことだらけだ。

「…言いたくないなら、聞かないよ」

 ただそれでも、彼女の不安げな表情を見て好奇心を優先しようとは思えなかった。人には誰しも踏み込んで欲しくない秘密を持っているものだ。

「……」

 その言葉に不知火さんは僕を驚いて見つめ、また言い淀む。

「ピ…キュウッ…ケホッ」
「わっ!ど、どうしたの?」

 そんな中突然、傍らで雛鳥が甲高い声で嘔吐(えず)き始めてしまった。

「ケホッゲホッ…」
「あぁ…」

 食べていたインコの餌を吐き出してしまう。口に含んだものの合わなかったらしい。

「…ピィ」

 食した分の半分ほど、吐き出すと辛く苦しそうに鳴いた。

「どうしよう。栄養取らないと元気になるものもなれない」

 吐き出した吐瀉物を片付けながら心配を込めて呟く。

「…人間が作った餌が合わないんだと思う」
「え?」
「たぶんだけど、人口の餌はこの子の体に合わない」

 僕の様子を見かねてなのか、恐る恐る不知火さんが呟いた。

「何百年も人目に触れずに生きてきた子たちだから」
「人目に、触れず?」

 たしかに見たことないけど、何百年もという部分が引っかかった。だとすれば彼女はどうしてこの子を知っているのだろうか?

「…あのさ」
「……」
「助けてあげたいんだ。生き物好きだから、見捨てられない」
「……」
「この子、なんていう鳥かわかる?」

 僕の気持ちを言葉に乗せて、先にも聞いた質問をもう一度投げる。

「……」

 彼女は悲しげな表情で考える素振りを見せた。
 数秒の沈黙の後、不知火さんがパッとこちらを見る。なにかを決意したような表情。

「この子は…この子はね、不死鳥なの」
「…え?」

 ゆっくりと潤んだ唇が開いて、信じられない言葉が飛び出した。