パチパチ…ボウッ…

 木材の焼ける匂いと舞い散る火の粉。時折音を立てて大きくうねる焔の波。

「え…えっ?」

 状況が全くの見込めない。足りない頭脳をフル回転させるもパニック状態だ。
 だってそうだろう?手当をしようと近づいた途端、彼女の体が炎に包まれた。そんな状況、経験したことはおろか想像したことすらない。

「…う、うぅ」
「ピィ!…ピィッ!」

 彼女の呻き声に呼応するように、雛鳥が鳴く。

「そ、そうだ…とにかく消さないと」

 その声で少し冷静になれた。今はなんでとか考えている場合じゃない。燃え移って他に火の影響が出ないようにとにかく消火するのが先決だ。
 僕は頭の中で裏庭の地図を広げて辺りを見回す。この近くに園芸用の水道があったはず。

「あ、あった!」

 部室の窓からそう離れていない距離に水道はあった。ご丁寧にホースまでついている。ぬかるんだ地面を蹴って水道へ駆け出した。

「…っ」

 とりあえず蛇口を全開に捻って水を出す。だが、園芸用のシャワーでは火を消すには勢いが足りない。ホースの先のシャワーヘッドを力任せに外そうとする。

「くそっ…ふっ!」

 しかし、非力な僕ではなかなか外せない。

「あ、こうか!」

 勢いよく引っ張り続けて、左に捻って外すタイプだとわかった。パコッとシャワーヘッドを外す。

「うわぁっ!」

 青色のホース内に巡っていた水が勢いよく噴き出し、体に水がかかる。
 水を出す、こんな簡単なことすらままならないほど、轟々と燃える炎を見て焦っていた。意図せずに燃え盛る炎の勢いは、人間本来の生物としての恐怖を呼び覚ました。進化の過程で炎を扱えても、潜在的な恐怖というのはなくならないらしい。

 外れたホースの口を持って不知火さんのところまで戻る。

「不知火さん!」

 呼びかけるも返答はなし。このままじゃまずいっ…!
 さっきより少し強くなった黒煙。口元を手で押えながらホースの口を不知火さんに向けた。