『焔消山山頂』と掘られた標を超える。木漏れ日と木々のアーチを通り抜け、先にある夏の陽光の眩しさに目を細めた。

「はぁはぁ…」

 山頂に着き、膝に手を当て、肩で息を切る。目の前には不知火さんの姿があった。

「ふふっ、赤翼くん。おつかれ」

 僕の切れた息遣いに気がついたのか、半身を逸らしながら振り返る不知火さん。
 薄茶で艶のある綺麗な髪。こめかみ付近の髪を押さえる羽根の髪飾り。少し吊り上がった切れ長で琥珀色の大きな瞳。白くてキメ細やかな素肌。
 山頂に満ちる青空と深緑の自然、映えるように立つ不知火さんはとても美しい。彼女の優しい笑みに動悸が止まらない。

「やっと追いついた」
「そんなに離れてないでしょ?」
「…うん」

 不知火さんの隣に立つ。眼前には澄んだ大自然。鳥の鳴き声がいくつも聞こえる。

「ここに来るの、今年で最後だね」

 景色を望みながら僕はつぶやく。

「高校生としてはね。私は大学生になっても毎年来るよ」
「…うん」
「赤翼くんは来てくれないの?」
「いや、来るよ」

 まっすぐ2人、前を向きながら会話する。

「赤翼くんは大学どこに行くか決めた?」
「えっと…不知火さんと同じところ」
「えっ?私と?」

 彼女は驚いて僕を見る。胸の高鳴りと青春に身を任せて僕はゆっくり口を開いた。

「不知火さんの隣にもっといたいから」
「え?」

 いつからだっけ?そう思うようになったのは。
 ピィちゃんに初めてご飯をあげて無邪気にはしゃいだり、部活を守るために必死に独りで我慢していたり、僕を助けるために怪我と正体を顧みず傷だらけで泣いてくれたり、亡くなった命を悲しんで葛藤したり。不知火さんとの思い出は、思い返せばきりがない。
 その彼女のどの姿も、僕の胸を高鳴らせる。
 だから、今ここで…。

「……」

 僕は不知火さんに向き合い、まっすぐと彼女の瞳を見つめる。彼女も真剣な表情。

「不知火さん」
「は、はい」
「僕は、不知火さんのことが──」

 脈打つ心臓、僕が伝えたいことを──
 僕の精一杯の想いを紡ごうとした、その刹那。