ピィィィィィィ!

「っ!」
「あっ!」

 高い高い空に甲高い鳴き声が響いた。
 雲ひとつない快晴の空に緋色の鳥がものすごい速さで横切った。紅と金色の線が青に溶ける。

「…ピィちゃん」

 目に映った緋色の鳥は、瞬く間に高く昇って姿を消していった。
 僕らの瞳に少し、涙が滲む。また姿を見せてくれた。それは一瞬でほとんど見えなかったけれど、間違いなくピィちゃんの姿だった。
 よかった。元気そうで本当によかった。
 
「……」
「……」

 僕らはそんな空を黙って見上げる。しばらくの沈黙。ふわふわするような、不思議な感覚。

「…私、まだまだ青春し足りないよ」

 不知火さんが空に目を向けながらそう言う。

「やり残したことたくさんある。まだまだみんなと遊び足りないし、動物たちのことももっともっと知りたい。それに──」

 言い淀み、スゥッと彼女が息を吸い込む。綺麗な瞳を閉じ、胸元に手を当てた。

「私、不死鳥の子孫だからとかじゃなくて、普通の女の子としても恋がしたい」
「え?」
「だからね」

 彼女が瞳を開く。

「っ!」

 彼女は胸元に当てていた手で僕の手を取った。思わず驚きで息を飲む。飲みこんだのは驚きと幸せの感情。触れた手は心臓のように脈打っていて、炎熱のような暖かさを感じる。目に映る彼女は頬を炎のように真っ赤に上気させていて、上目遣いに僕を見つめていた。

「私とこれからずっと、一緒に青春してください。有真くん」
「っ!」

 彼女の潤んだ瞳と口元、今まで見た中で1番美しく微笑んだ。

「これからもよろしくね」
「…うん、よろしく。雛子ちゃん」

 互いに名前を呼び合い、青い青い夏空の下で笑いあった。繋がれた手が気持ちを固く結ぶ。
 僕と彼女は不死鳥のように。どこまでも、何度でも、羽ばたいていこう。僕らだけの青春という青空を。