「いいから放して!」

 いっぱいいっぱいになったのか、窓から身を乗り出す不知火さん。

「あぁ、もう!」

 彼女は一刻も早くといった様子でさっきの僕と同じように窓に足をかけた。

「不知火さん!?危ないよ!」

 1階の窓とはいえ、その姿は危なっかしかった。明らかに跳んでこようとしているものの、慣れていないのが一目でわかる。そういえば彼女、体育は絶対に休んでるって聞いた。きっと跳び越えるとかいうやんちゃなことしたことないんだろう。
 落ちては危険だと思い、急いで駆け寄る。

「っ!」

 僕が窓の近くまで来た瞬間…僕の制止を振り切り、彼女は窓から跳んだ。

「えっ!?」
「きゃあっ」

 しかしその姿はあまりにも不格好で、足ではなく頭から先に窓の外に出てくる。

「あ、危ないっ!」

 僕の声が虚しく広がる。その瞬間はスローモーションに見えた。頭からゆっくり落ちる不知火さん。驚いた表情の彼女。ゆったり聞こえる蝉の声。

 ドシャアッ!!

 鈍い音と地面を擦る音がして、地面に散らばる角材の塊に突っ込んだ。尖った木の棒の塊に頭から突っ込んだら大怪我間違いなしだ。
 普通にやばい!早く手当しないと!

「ピィッ…!」

 腹部に包んでいた雛鳥を優しく傍らにおくと、さっきよりも少し元気な声で鳴いた。それはまるで仲間でも見つけたかのような声。

「不知火さん!」
「…っ!」
 
 鳴き声には目もくれず僕は慌てて不知火さんを呼ぶ。
 頭から垂れる血で真っ赤に染った顔。制服から見える細く白い腕も、角材でぱっくりと切ってしまっている。

「み、見ないでっ!来ないで!」

 しかしそんな姿を見て欲しくないのか不知火さんが叫ぶ。

「いや、そんなこと言ってる場合じゃ…」
「あなたが死んじゃう!」
「え?」

 無視して駆け寄ろうとすると、意味不明な言動で拒絶する彼女。
 死んじゃう?僕が?むしろ死ぬ死なないで言うなら怪我してるのは不知火さんだ。
 そんな考えが頭の中を巡った一瞬、時間でいえば1秒もない刹那の時。

「うっ」

不知火さんが小さく呻く。そして…

「えっ!?」

…シュッ!ボウッ!

炎の吹き出す音とともに、彼女の体は勢いよく深紅の炎に包み込まれた。