「……」

 遠く遠くどこまでも澄んだ空。山頂、空と同じ高さの僕の目線にいっぱいの青が映り込む。
 ピィちゃんが飛んで行った先、僕と不知火さんは2人でじっと動かずに並んで空を見ていた。

「…っ」

 押し殺すような嗚咽は僕の隣から。

「ぅ…っ…」

 辛さを飲み込む息遣いと抑えるような声。
 隣から聞こえる不知火さんの啜り泣き。いろんな気持ちが交差している泣き声。
 ただそれでも、奥歯をかみ締めて必死に泣くのをこらえている。

「不知火さん」

 僕はそんな彼女に声をかけながら、不知火さんの手を優しく握る。目線を空に向けたまま。零れ落ちた涙を頬に伝わせながら。
 僕も泣いていた。静かに、静かに泣いていた。

「…うっ……うぅ」

 不知火さんの涙は止まることはない。押し殺すような声と我慢も虚しく、ボロボロと滴り落ちる。

「不知火さんはすごい。最後までピィちゃんに涙を見せなかった」
「…っ!」
「本当によく頑張った」

 月並みでつまらない陳腐な褒め言葉。それでも心を込めた大切な言葉。
 別れが寂しくならないように今日までずっとずっと涙を我慢してきたんだ。しおらしい別れにしないために。

「不知火さん、もう泣いていいんだよ」
「…っう」
「思いっきり泣いていいんだよ。幸せだった分、楽しかった分、一緒にいられたことを噛み締めて。僕と一緒に涙できちんと別れを惜しもう」
「っ!」

 繋いだ手に力を込めて、不知火さんの手を柔らかく包み込む。熱を心へ伝わせるように。気持ちが同じだとわかるように。
 僕はめいっぱいの涙を零してそう言った。

「うぅ…うう。ああっ…」

 僕の言葉を受けて声を漏らし、身体を震わせ、嗚咽を混じらせ、不知火さんが泣き始める。体全部から漏れた精一杯の涙と声に感化され、僕は不知火さんに体を向ける。

「不知火さん」

 受け止めるように不知火さんへ声をかける。

「赤…翼くん…」

 不知火さんは僕の名を呼び、こちらを向く。
 そして…。

「うぅ…ああっ!ああああああぁぁ!」

 手は繋いだまま僕の胸に顔を埋めて、大きな大きな声で泣いた。美しい夏色の空に彼女の泣き声が木霊した。