「だからね、私も一生懸命生きてみる。周りと違くても、不死鳥の血でも。友達と遊んだり、青春したり、みんなと同じように生きてみたい」
ずっと周りと違うことを気にして、誰とも関わらず生きてきた不知火さん。一瞬一瞬を全力で生きてきたピィちゃんと共に過ごして得られた決意。
そんな彼女の心からの言葉は僕の胸を打つのには十分過ぎた。じん、と熱い何かが胸に灯る。
「だからピィちゃん、ありがとう。私、あなたといれて幸せだったよ」
「ピィ!」
その言葉にピィちゃんも呼応し、翼を不知火さんの手のひらに重ねた。『頑張れ』とでも言っているかのよう。
不知火さんの存在はピィちゃんたちが残した未来の形だ。彼女の姿にピィちゃんは心から安心したような表情を見せた。少なくとも僕はそう感じた。
「ピィちゃん、僕も楽しかった」
思わず不知火さんの手のひらにいるピィちゃんを優しく撫でる。
熱めの体温が指先に広がる。ピィちゃんは目を細めて気持ちよさそうにしてくれた。
「最初は興味本位だったのもあるけど、ピィちゃんと共に過ごせてよかった」
「…ピ」
生物の神秘を知るだけじゃだめだ。生き物と接する難しさや命の重さをピィちゃんは教えてくれた。
僕はここの心地いい空気を吸って周りを見渡す。幾羽もの鳥たちと雄大な自然。木々の緑と空の青、鳥たちの楽しげな鳴き声。
今ここにある全ての命が、この瞬間をめいっぱい生きてることでできあがっている美しい光景。その一つ一つが、例え未確認でなくとも生物の神秘なんだ。
「……」
ただ好きなだけじゃなくて、ただ生物を解明したいだけじゃなくて。ピィちゃんのような生き物が過ごしたこの光景を守っていける人に僕はなりたい。
「ピィちゃん、ありがとう。僕も幸せだったよ」
そんな気持ちを心から込めて、僕はピィちゃんにありがとうを告げた。
「ピィッ!」
緋色の鳥の美しい鳴き声。終わりはもうすぐそこ。
「さぁ、いっておいで」
不知火さんが手に乗せたピィちゃんを送り出すように高い空に向けて持ち上げる。
「ピ…ピィッ!」
1度鳴いてこちらを振り向き、手のひらに体を擦り付ける。
ありがとう、そう聞こえた。
「ピッ!」
そしてピィちゃんは前を向き、赤い翼を羽ばたかせて飛び立った。
翼の折れたぎこちない飛び方ではない。綺麗に飛翔してぐんぐんと高く昇って行く。決してこちらを振り返ることなく。
この雄大な空に、ピィちゃんを阻むものはなにもない。青い夏の空に緋色と金色が揺らめく炎のように駆けていった。
やがてその美しい緋色と金色は大自然に溶けて見えなくなった。