「ピィィッ!」

 ピィちゃんが2人を見送るように鳴き、僕の手のひらの上で翼をはためかせる。手を振るように。惜しむように。愛らしいその姿にまた涙が出そうになる。

「……」

 盗み見るように不知火さんへ目を向ける。翼を揺らすピィちゃんを見るその表情は、微笑みの中に寂しさを感じた。
 しかし、彼女の目に涙は流れていない。

「不知火さん」

 十鳥先生や翔たちと同じように、不知火さんもたくさん伝えたいことがあるはず。
 僕は手のひらに乗るピィちゃんを渡すように不知火さんの方へ手を伸ばした。

「ピィちゃん」
「ピッ!」

 その声に応えるように、ちょこんと跳んで彼女の手のひらに乗る。

「キュウ、キュウッ」

 不知火さんの手のひらに頭を擦り付けるような仕草。

「っ」

 感極まったかのような反応、目頭が熱くなる。
 この子はこれからどんどん大きくなるんだろう。この場所で、自由に。

「ピィちゃん、私ね」

 ぽつりと不知火さんが話し始める。
ピィちゃんに近づくように、手のひらを顔の前まで持っていく。

「一緒にいられていろんなことを知ったよ」
「ピッ?」

 ピィちゃんが不思議そうに首を傾げた。赤色の翼と金色の尾羽が揺れる。

「ピィちゃん、一生懸命生きてたんだね。赤翼くんや生駒くん、十鳥先生と一緒にご飯をあげたり、飛ぶ練習したり。すごく楽しかった」

 不知火さんが手のひら全体で優しくピィちゃんを包み込み、親指で首元をくすぐる。

「あなたは生まれ変われるのに、そのどの瞬間もめいっぱい生きてた。私、ピィちゃんが最初怪我してるの見た時、生まれ変わればいいのに、なんて軽く思ってた」

 不知火さんは初めてピィちゃんを見た時、助けないで早く放してあげてと僕に叫んだ。
 たしかにあの時すぐに逃がしていたら、ピィちゃんは燃えて生まれ変わった後、怪我は元通りになったのかもしれない。
 でも、僕も含めてピィちゃんが1度生まれ変わってわかった。生まれ変わりの一瞬は、ピィちゃん自身が1度死ぬことなんだと。死は1つの終わりなんだと。