「え?不知火さん?」

 部室の開けっ放しだった窓からこちらを見ていたのはお昼に興味無いと一蹴してきた不知火さんだった。
 なぜここに?という疑問は持ったが、それ以上に驚いたのは彼女の表情。彼女は目を丸くして口をパクパクさせながらこちらを指さしている。
 本日二度目。不知火さんの滅多に見ない慌てた姿。

「…そ、それ!その子!」

 雛鳥を差し、ようやく絞り出したその声は授業で聞いた澄んだ声とは違って掠れていた。

「あ、この子?怪我してるみたいなんだ」
「その子のこと知ってるの!?」
「え、いやうーん。わからない。とりあえず助けて調べようかと──」
「っ!」

 調べる、という言葉に過敏に反応した。元々色白の素肌が青白くなっていく。

「だめ!」
「えぇ!?なんで!?」
「だめなの!とにかく早く放してあげて!」
「でもこの子まだ雛鳥だし弱ってるし…」
「い、いいから!」

 よくわからないけど、必死な不知火さん。僕よりも深く知っている様子。でも今この子を放したら他の動物に狙われて死んでしまうのがオチだ。
 自然界は弱肉強食。怪我をして動けない生き物など無力にも等しい。

「…見捨てることは出来ないよ」

 自然界の掟に反する行為でも、助けられる命に手を差し伸べないのは生物好きとしてはできなかった。この子を捕食する生物もいるだろうが、今は目の前の命を優先したい。
 彼女の言葉による指示を振り払い、僕は腹部に包んだまま部室の窓まで歩く。

「もう少しだからね」
「あっ…と、とにかくだめ!」

 僕の意志が固いと悟ったのか、彼女が焦り始める。やはりそれも初めて見る表情だった。
 こんなにも感情の動く子だったんだな。と、今の状況に絶対に合わない感想を抱いた。