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「今日のご飯はーっと」

 そんなこんなで2時間ほど、しっかり宿題をした後で不知火さんが真新しいノートにピィちゃんの今日のご飯を記載していく。

「ピィーー」
「わっ、ちょっと!ピィちゃん!くすぐったいよ、あははっ」

 翔はそんな不知火さんの隣でピィちゃんを鳥籠から出してじゃれていた。

「今日の日付は──」

 そんな様子を横目で笑いながら、不知火さんが1冊のノートに文字を綴る。
 僕ら3人はピィちゃんに日誌をつけるようにした。今日食べたもの、素人目で見た体調、気づいた変化、遊んであげた内容。とにかくざっくばらんに。それから不知火さんの文献を読んで気が付いたことや試してみたことも。
 なにか手がかりをと読み漁る中で、ピィちゃんの生態についても少しずつ僕らは詳しくなっていった。
 日誌を書くのは部活動としてしっかり活動しようという名目ももちろんある。でもそれ以上に、ピィちゃんと別れる前に一緒にいたというなにかを残しておきたい。
 言葉には出さないまでも僕ら3人にはそんな思いがあった。


「うーん、暑い」

 そんな僕はピィちゃんのご飯を整理しながら、額に浮かぶ汗を拭ってそう口にする。

「やめろ有真、余計に暑くなる」
「ピィィ」

 翔とピィちゃんは心底暑そうにシンクロしてぐでっと倒れた。仲良いな。

「いやぁ、扇風機でもあればいいんだけどね」

 不知火さんが苦笑いで反応する。風と言えば今はピィちゃんが通れない程度に隙間を開けた窓から入る外の熱気だけだ。部室でピィちゃんを運動させる以上、大きく窓や扉を開けられないのが辛い。

「扇風機があっても空って飛べるのかな?」
「生駒くん、さすがに舐めすぎじゃない?自然界にいたんだから飛べるはず…でもどうなんだろ。赤翼くんわかる?」
「問題ないと思うよ?でも普通に扇風機に挟まって怪我とかしちゃうかも?」
「ピィイィ!」

 怖がるピィちゃん。めったにないとは思うけどね。
 とはいえ、部室には扇風機もクーラーもないのはしんどい。部費で買えないか十鳥先生に相談してみよう。
 そういえば十鳥先生、ほとんど顔だしてないけど、大丈夫なんだろうか?何度か職員室に行ったけれど、ほぼ毎回外出してると聞く。

「ふぅ、あっつ」

 部室を見渡すと不知火さんが額に汗を浮かべていた。下敷きでパタパタと顔を仰ぎ、日誌を書く。
 下敷きの風を受けて、白いうなじに浮き出ていた玉のような汗がゆらゆら揺れる。それは夏の陽射しを反射して綺麗な光を見せた。首元に張り付いた短めの茶髪と揺れる光。

「……」

 色っぽく見えて少しだけドキドキした。