〜 Side 翔 〜

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 俺は独り、駅前の公園のベンチで空を見上げていた。焼けるような夕闇。ひぐらしの声だけやたら大きい。
 もう部室にしばらく顔を出してない。きっと2人は今もピィちゃんお帰りを待っているだろう。
 不知火さんは明らかにショックを受けていた。それを含めて有真に任せっきりなのは本当に申し訳ないと思っている。でもどうしてもピィちゃんの件に自責がないとは思えなかった。
 これはひとえに、自分のはっきりとしない性格が生んだ結果だと思っている。

「……」

 あれから1週間。もう夏休みになって数日だ。早いところ決着をつけるつもりが、裏を取るのに時間がかかってしまった。
 彼女たちと話がしたい、なぜ嫌がらせをしたのか。そのために動いていた。
 直接問うてもきちんとした返事は得られなかった。人を売るという行為は次の刃の矛先を自分に変えるだけ。それは他でもない自分が一番わかっていた。
 有真が遠巻きに見られているのを知っていて、そう見られるのが嫌だと感じたことはある。円滑に高校生活を過ごすために、周りに合わせて生きるのは当然。それでも俺は有真と離れたくはなかった。
 だから中途半端に、幼馴染として接するだけで遠巻きに見られていた噂の数々を周りに否定することをしてこなかった。
 でも今回の件で変わらなくてはと思った。付き合いたくない人と苦笑いしながら付き合うよりも、俺は自分の大切な人たちを大事にしたい。

「あ、翔くーん!」

 そんな風に黄昏ていると、遠くから教室で幾度となく聞いた声がした。声の方に目を向けると、1人の気が強そうな女の子が小走りでこちらに向かってきている。

「羽折さん」

 ようやく来たという気持ちと、けじめをつけなければという緊張を抱える。
 可愛らしく走るその姿。男性の心に刺さるようなその仕草は、いったいどこまでが本当なのか?

「ごめんね?友達と遊んでて遅れちゃった。夏休み入ってからたくさん遊んじゃって」
「うん、大丈夫」

 これは嘘だ。気を引くため、気持ちを焦らすための打算的な嘘。悪いとは言わないが卑怯だとは思う。
 いつも羽折さんと一緒にいるクラスの女子たちに裏はとってある。夏休みに入ってからはほとんど彼女たち同士で会っていないという。この証言を聞き出すのにどれだけ苦労したか。
 だが、自分もこの日のためにいろいろした。彼女たちの良心に問いかけたり、欺いたり、立派な人間とはとても言えない。ある意味、俺と羽折さんは同じ人間だった。