………


「……」
「……」

 カナカナと部室にひぐらしが響く。僕らは床にへたり込み、部室の壁に並んで寄りかかりながら、ぼーっとその声に耳を傾けていた。疲弊からか、互いに少し息が上がっている。
 橙色の夕焼けと静かな呼吸音。僕の心の中は先程感じていた炎のように熱い。
 興奮は冷めやまず、ドキドキと胸が高鳴ってしかたない。

「…っ」
「っ!」

 なんとなく隣の不知火さんの方を見ると、バッチリ目線があってしまう。思わず2人とも反射的に目を逸らした。
 一瞬合った彼女の目元は真っ赤に腫れていた。その腫れた目元でさえ綺麗に感じ、僕の胸をさらに高鳴らせてくる。互いに沈黙。気まずいが、どこか心地よかった。
 彼女が人に戻ってから僕らはずっと手を握りあったまま隣に座っている。僕の右手に広がる彼女の熱。柔らかな炎が脈打つように。
 言葉は交わされないけれど、硝煙の香りが残る気持ちのいい空気を2人で一緒に感じていた。

 パチッ…ジジジッ…

 そうして黙っていること数分、なにかに火が灯る音が聞こえる。燃え始めるような音が部室に小さく鳴った。

「なんだろう」

 僕らは顔を見合わせてその音に耳を傾ける。僕らは同時に立ち上がった。
 床から腰元くらいまでの高さの机の上に、その音の正体はあった。
 風避けのために透明なケースに入れられていたこぶし大程度の小さな灰の山。その灰がまるで炉のように赤く、焚き木のように火の粉をはじけさせながらパチパチと音を立てていた。


「不知火さん、これって!」
「っ!」

 音を立てる灰の山は次第にどんどんと燃える勢いを増していく。

「……」
「……」

 黙ってその光景を見ていた僕らの目の前。

 パチッパチッ…シュボッ!

 やがて、大きな炎が灯った。