伝った涙から青い炎が噴き出す。部室に充ちる赤熱色の炎光に麗しくも荘厳な青色が混ざる。
 不知火さんの涙が持つ、治癒の炎。赤と青が入り混じって燃え上がる光景は、激しいはずなのに不思議なほど穏やかだった。
 灼熱の炎に当てられて朦朧とする僕と彼女を中心に、全体を瞬く間に蒼炎が包み込んでいく。爛れた皮膚、熱で掠れた喉、焼け焦げた床、黒煙充ちる空気、そして彼女の鳥化してしまった肉体全て。

「…キュウッ」

 不知火さんが僕の体を抱き寄せる。鳥の翼になってしまっていた腕。抱きづらそうに力は弱々しかったが、優しくふんわりと包み込む感覚に心地いいと感じた。
 青い炎が地を這い、壁を登り、天井を駆ける。そのことごとくを燃やし、全てを元に戻す焼跡を残していった。そして最後に彼女の首元に纏わりつく。

「キュ…ア…あぁ…か…バネ。あか…ばねく…んんっ!…あー、あっ!赤翼くん!」

 纏った蒼炎が喉を離れたその瞬間、僕の名前がはっきりと聞こえた。

「…よかった」

 心の底から漏れた言葉。気が付けば僕の意識も戻りつつあった。

「赤翼くん!赤翼くん!」

 ギュッと力強く、青い炎よりも暖かい気持ちが僕を抱きしめた。

「ごめん!ごめんね!私も!赤翼くんと一緒に人として生きたい!」

 不知火さんが泣きながら、痛いほどに、苦しく思うほどに僕を抱きしめる。彼女の翼だった腕はもう人間のそれだった。

「ありがとう!ありがとう!」

 わんわんとした泣き声。鼻をすすり、嗚咽混じりに泣く、人目を気にしないその声に嬉しくなる。

「…不知火さん、おかえり」

 しがみつくように強く抱きしめる不知火さん。僕はその体制のまま、涙を流す彼女の紅茶色の髪を撫でる。柔らかく綺麗な色と艶のいい指触り。彼女の白い頬にまた1つ、大粒の涙が流れた。
 僕の傷は癒え、不知火さんが人間に戻れた。気がつけば青い炎も消え、何もかもが元通りの部室になっている。
 数分前と全く変わらない姿の部室。赤く鳴くひぐらしの鳴き声と、青く泣く不知火さんの泣き声が満ちていた。