「赤翼くん」

 もしもこのまま…なんて嫌な想像と感情が頭を巡った時、すかさず隣から聞き慣れた声が聞こえる。
 不知火さんが僕をまっすぐ見ていた。髪色と同じ琥珀色の瞳がなにかを伝えるように僕の視線と交差する。

「私ね、嬉しかった。赤翼くんが…隣にいてくれたから」

 不知火さんからぽつりと言葉が紡がれる。

「っ!」

 直接的な表現に心が動く。夏風がサラサラと通り過ぎ、彼女の薄い茶髪を揺らす。その艶のある髪1本1本が夕陽を浴びて金色に輝いた。

「赤翼くん、あの日から私が嫌がらせ受けてるって知るとずっと気にかけて話しかけてくれたよね」
「そんなの当然だよ」

 僕は不知火さんの友達だから。
 僕の言葉に不知火さんは横に首を振るう。

「当然のことじゃないよ。見て見ぬふりをしなかった」
「するわけないよ。本当は無力感でいっぱいなんだよ。大丈夫?って聞くことしかできない」
「それが嬉しいんだよ。独りじゃないってことが、嬉しいんだよ」

 優しい言葉が心に染入る。独りじゃないことが嬉しい。その言葉が彼女の口から出るのは新鮮だった。
 僕は不知火さんを独りにはしたくない。不知火さんのお母さんに頼まれたのもある。でもそれ以上に彼女と過ごしてきて人となりを知り、優しさを知り、純粋な気持ちで彼女と一緒にいたいと思った。友達として、一緒に。

「だって…」

 不知火さんが目を閉じ、一息入れる。次の言葉を紡ぐための深呼吸。夏の空気が肺に入って彼女の制服が膨らんだ。

「私だって人間だから。独りは寂しいって気づいた」