『人間だから』

 彼女の言葉はとても柔らかく、同時に僕は少し驚いた。
 以前、不知火さんは自分のことを不死鳥としても人としても、中途半端な存在だと言っていた。
 彼女の中で何かが変わった。それが感じられる言葉だった。

「独りじゃないっていうのは安心するんだって。孤独に死んで生まれ変わる、不死鳥とは違う。それを教えてくれたのは赤翼くんだよ。私は独りにならなかった。赤翼くんが隣にいてくれたから、赤翼くんが一緒に痛がってくれたから。私、今も心が折れずに済んでるんだと思う」
「…ぁ」

 彼女が座ったまま、僕の手を取る。

「今日だって…ううん、昨日も一昨日も。私がここに来る時はいつも、同じくらいの時間に来てくれる。何も言ってないのに、私と一緒にいてくれる」
「僕も心配だからだよ」
「それはね、優しいっていうんだよ」

 不知火さんが少し、本当に少しだけ微笑んだ。

「…っ!」

 夕焼けに映える微笑。それは息を飲むほど綺麗だった。茜を反射する茶髪、対照的な白い肌、ふっと漏れた息遣い。
 嫌がらせを受けたうえに、ピィちゃんはいなくなってしまった。笑えるような精神状態ではないはずなのに。
 僕が無力だと思っていた行動と気持ちが、彼女の心を溶かしてあげられたのなら。そう思うと胸がいっぱいになった。不知火さんが僕を支えにしてくれた。そばにいてよかったと本気で思えた。
 どうしてこんなにも彼女に必死になるのか。もしかしたら僕は──

「世の中の人がみんな、赤翼くんみたいに優しかったらいいのに」
「僕にとっては不知火さんも十分過ぎるほど優しいと思うよ」

 ピィちゃんを助けようと強く思ってくれたり、僕の強引な行動にも付き合ってくれたり、そんな不知火さんは間違いなく優しい人だ。

「ありがとう。でも、世の中にはそんな人たちばかりじゃないから」
「…それって」

 不知火さんは僕の言葉に俯きで反応した。それが嫌がらせをする人たちを指すのかはっきりと口にしなかったが、不知火さんは自分の肩を抱いて少し体を強ばらせていた。その姿が、全てを物語っていた。