「うわぁっ!」
「わっ!」

 その炎に驚いて僕と翔が少し慄く。炎に見慣れているのか、不知火さんは少し驚きの表情を浮かべるだけでピィちゃんをじっと見つめていた。

「火が!」

 灯った炎はピィちゃんは命のように弱々しくゆらゆらと揺れていた。火が着いた後もピィちゃんは足をばたつかせるのをやめない。
 仄暗い夕焼けの部室に、爪の灯火がバタ足の軌跡を描く。僕らの瞳に蠢く炎による紫の残像が残る。火花を散らし、焔が揺れ、炎光が瞬く。まるで夏の夜に儚く舞う線香花火のよう。その光景を僕らはただ見守るしかできなかった。

 パチッ…ボウッ!パチパチッ…!

 やがて、生まれた炎は大きくなり、小さなピィちゃんの体を包み込むほどになった。

「燃えてる」
「ピィちゃんが燃やしてる?」
「自分の体を?」

 不知火さんから教えてもらった。不死鳥は死に際になると体を燃やして灰にする。きっとピィちゃんは…怪我で亡くなることよりも体を燃やして生まれ変わることを選んだんだ。轟々とピィちゃんが燃える。

「キュウッ!キュルルル!」

 今この時までほとんど鳴かなかったピィちゃんが燃え盛る炎の中でまるで押しつぶされるような声で呻き鳴いた。

「不知火さん、すごく苦しそう!」
「わ、私も初めて見る。でも私だって自分の出す炎は熱いのに、肉体全部を燃やすほどの炎なんて…」

 きっと熱くて苦しくて辛いに決まってる。それはピィちゃんの鳴き声が物語っていた。

「ギュウッ!ピキキィ!キュウウゥッ」

 まるで助けてと言うみたいに。辛い、苦しい、と言うみたいに。
 耳に残る、ピィちゃんの断末魔。生まれ変わるという結末を選ばなくてはならない状況までに僕らがピィちゃんを追い込んでしまった責任。その全てをこの場の人間全員が噛み締めた。