白兎の悲鳴が虚しく響く。

 けれど白兎も飲食店でアルバイトをしているので、食材がなくなってしまうという状況も理解できる。だから、悲しいけれど、あきらめるしかない。

 うわーーーーっ! でも、耐えられねえ!

「オレは菓子が食べたい! 堂道、行くぞ!」
「へ? 有栖川、どこ行くんだよ?」

 びっくりして戸惑う堂道を連れて、白兎はずいずいと歩き始めた。

 白兎の辞書には、こう書いてある。

「スイーツが買えないなら、作ればいいだろ!」



 ***
 白兎と堂道はいったんコンビニに寄って、それからとあるレストランにやって来た。

「ファミリーレストラン《りんごの木》……。白兎のバイト先じゃん」

 おとぎ商店街にある小さなレストランは、白兎がアルバイトをしているお店だ。

 けれど、店が小さいからとあなどることなかれ。シェフの作る料理は、食べておいしく、そして楽しい逸品。
 ちなみに料理だけでなく、製菓も達人の域である。去年ぶらりと店に寄り、食後のデザートを食べた白兎にパティシエを目指させてしまうほど美味しい。

 そして白兎は、そんなシェフにスイーツ作りを教わり、今ではウエイター兼デザート係を担当している。

「店が休みの日でも、スイーツの試作にキッチン使っていい、って言われてんだよ」

 白兎はニヤッと笑うと、お店の合鍵をガチャリと扉に差し込んだ。

「白兎。お前、目付き悪いよな。どろぼうに見えるぜ」
「余計なお世話だ」

 堂道の表現も、遠くないかもしれない。

 白兎はそろりそろりとお店のキッチンに入り、スーパーで買ったスイーツの材料を広げた。

「板チョコ、チョコレート菓子数種、チョコペン、ウエハース、ビスケット、マシュマロ!  よし、やるぞ!」
「市販のお菓子がめっちゃあるけど、何作んだ?」

 きょとんとしている堂道を見て、白兎は「ぐふふ」と笑みをこぼした。笑わずにはいられなかったのだ。

「スイーツ好きの夢! 【ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家】を建設するぞ!」
「えぇー。白兎が手作りしてくれるんじゃないのかよ!」
「店のものを食いたけりゃ、金を払え。金を。オレ様のスイーツは有料だ」

 白兎が言うと、堂道は「ボクにくらいサービスしろよ」と、すねたフリをしていた。