ましろがクスクスと笑うと、りんごおじさんは「困りましたね」と肩をすくめた。一方のおばあちゃんは、ましろをほめまくりだ。

「まぁ、えらい! がんばってるのねぇ! その粋よ!」
「まだまだこれからだけどね~」
「いいえ。きっと、ましろは料理上手になるわ。これは私の遺伝ね。だって、美姫も凛悟も……。あっ」

 言いかけて、おばあちゃんは口をつぐんだ。どうしよう、という顔をしている。理由は、ましろのお母さんの名前を出してしまったからだろう。

「大丈夫だよ、おばあちゃん」

 ましろはにっこりとほほ笑むと、作りかけのポテトサラダのボウルを持って、キッチンを出た。そして、カウンターの向こう側に立つ。

「お母さんに会えないのはさみしいけど、今はもう悲しくないよ。だって、わたしにはお母さんとのステキな思い出がいっぱいあるし、りんごおじさんとの生活だって、すっごく楽しいから」
「ましろ……」

 おばあちゃんは目をうるうるさせていた。おばあちゃんだって、ましろと同じくらい娘のお母さんのことが大好きだった。だから、つらい春を過ごしたと思う。

「おじいちゃんも似たようなことを言ってたわ。思い出があるから大丈夫だって。残された家族で、美姫の分まで幸せに生きようって」
「父さん、いい事を言うじゃないですか。後で、電話してみませんか?」
「それとこれとは別よ!」

 おばあちゃんは、りんごおじさんの提案をきっぱりと拒否した。さっきのうるんだ瞳がウソのように吊り上がっている。りんごおじさんのとっさの策は、見事に失敗だ。

「あの人から謝ってこない限り、許さないんだから!」
「さすが、母さん。なかなか手強いですね」

 りんごおじさんは、「はぁ」とため息をついた。