「学校では、どっちかっていうとウエディングドレスが人気だったよ。おばあちゃんは、どっちが着たい?」
「こんなおばあさんにドレスか着物だなんて、聞いても意味ないわよ」

 ましろの何の気なしの質問に、おばあちゃんは目を細めて答えた。

「若い時なら、こんなきれいなウエディングドレスを着てみたかったけどねぇ……」
「じゃあ、ドレス?」
「私は、ましろがウエディングドレスを着る日を楽しみに待っているわ。素敵な花嫁さんになるのよ」

 そして、おばあちゃんはましろの手を取って再び歩き始めた。

「さぁさぁ! 次はスーパーに行きましょう! 晩ごはんは、おばあちゃんが作ってあげるわよ!」
「やったー! カラアゲが食べたい!」

 ましろはそう言ってから、少しだけウエディングドレスのショーウィンドウを振り返った。

 おばあちゃん、ほんとはウエディングドレスを着たかったんじゃないかなぁ。


 ***
 夕方、《りんごの木》のディナーは臨時でお休みにしたようで、りんごおじさんは早々とマンションに帰って来た。

「せっかく、母さんが田舎から出て来てくれましたから。三人でゆっくり食事をしましょう」
「なんだかすまないわねぇ、凛悟。じゃあ、私が腕によりをかけて作るから、待っといで」

 おばあちゃんは、やる気満々でキッチンに入って行った。けれど、りんごおじさんのめずらしい調理器具や調味料に興味津々で、なかなか料理がはかどらない。

「凛悟、これは何?」
「あっ。母さん、それは触らないでほしいです……!」

 そんなやり取りを何度も何度も繰り返しているうちに、いつの間にかおばあちゃんとりんごおじさんの二人で料理をしていた。なんだか楽しそうで、思わずましろもキッチンをのぞいてしまう。

「わたしも、何かお手伝いするよ!」
「おや、ましろ。気が利くわね。何をやってもらおうかしら」
「ましろさん、最近料理の練習を始めたんで、けっこう色々できますよね」

 りんごおじさんにそう言われて、ましろは「えへへ」と照れ笑いした。以前開かれた《かがみ屋》での料理教室をきっかけに、ちょこちょこ自宅料理教室が開催されているのだ。くるくるの卵焼きや、出汁から取るおみそ汁、きんぴらごぼうなんかは、もうマスターしている。

「料理、ちょっと楽しいなって。いつか、《りんごの木》のシェフの座を奪っちゃったりして」