おばあちゃんの右手には、買ったばかりの服や帽子の入った紙袋、左手にはカフェでテイクアウトしたコーヒー味のフラペチーノ。そして背中のリュックは、田舎のお友達へのお土産でぱんぱんだ。控えめに言っても、かなりはしゃいでいる。

「お土産買ったってことは、明日には帰るの?」
「何言ってるのよ! おじいちゃんが謝るまで帰らないわよ。お土産は日持ちをする物を選んだけど、いざとなれば宅急便で送るつもりよ」
「そ、そうなんだ」

 うわぁ! おばあちゃん本気だ。

 おばあちゃんが一度決めたことを曲げない性格であることは、お母さんから聞いたことがあった。どんな時でも朝の五時に起きて散歩に行くし、ダイエットのおやつ断ちも成功。ピクニックは雨天決行だったと。

 これは、本当におじいちゃんが謝らないと帰らないぞ。

「おじいちゃんは、謝ってくれなかったの?」

 ましろがケンカになった時のことをたずねると、おばあちゃんはちょっと寂しそうな顔をした。

「謝るどころか、『いまさら結婚した日を祝って意味があるのか』って。本当に結婚した日は、お祝いすらできなかったのに」
「おじいちゃんめ! 記念日は大事なのにね」
「そう! そうなんだよ……」

 おばあちゃんの視線の先には、ウエディングドレスを着たマネキンが飾られているショーウィンドウがあった。多分、貸し衣装屋さんだろう。

「ウエディングドレス、きれいだね」

 ましろは、美しい純白のドレスにうっとりと見惚れた。
 もし自分が着るなら、どんなものがいいだろう。お姫様みたいにかわいくふくらんだドレスか、スラリと大人っぽいドレス? つるつるしたきれいな生地か、ふわふわのレース? リボンやお花が付いているのもステキだ。

「ましろは、大きくなったら着てみたいかい?」
「うん! 結婚式ではウエディングドレスを着て、前撮りでは白無垢を着るよ!」
「ずいぶんと具体的で驚きだよ。まさか、もう彼氏がいるのかいっ? あのアルバイトの子かいっ?」

 おばあちゃんが慌ててしまったので、ましろは「違うよ!」と一生懸命に首を横に振った。

「学校のお友達とそういう話をしただけだよ。それに、アリス君は彼氏じゃないよ」

 そんなことを言ったら、アリス君は大爆笑するだろう。