ましろはりんごおじさんに圧倒される形で、「じゃあ、【おまかせ】一つ」と、小声で注文した。

「かしこまりました。あっ、アリスくーん! ましろさんに飲み物を……。ましろさん、何か飲みたい物はありますか?」
「えっと、リンゴジュースください」
「リンゴジュースですね。うちのは近所の果物屋さんのリンゴを使っていて、とてもおいしいんですよ。……アリスくーん! リンゴジュースひとつお願いします!」

 うわ、りんごおじさん声おっきいよ!

 ましろは、壁に埋もれてしまいたい気持ちになりながら、黙ってうつむく。

 そして、「では、少し待っていてくださいね」とりんごおじさんが席を離れると、入れ違いに若い店員さんがやって来た。アリス君と呼ばれていた目つきの悪いお兄さんだ。

「お待たせ致しました。リンゴジュースです」

 空色のコースターの上に、グラスに入ったリンゴジュースがコトンッと置かれた。

「ありがとう、ございます」

 ましろはストローの外紙をぴりぴりと破くが、なんだか店員のお兄さんに見られているようで落ち着かない。実際、お兄さんはまだましろの隣に立っていた。

「あの……」
「ごめん、じろじろ見てた。天パとか色白なとことか、店長にそっくりだな。姪っ子なんだよな?」
「姪、です。今まで、りんごおじさんと交流はなかったですけど」

 ましろは、お兄さんの鋭い目つきに少し緊張しながら答えた。

「ぷっ。りんごおじさんって呼び方、面白いな。超ファンシーじゃん」
「で、でも名前がりんごだから!」
「うんうん。そーだよな。りんごおじさんだ。りんご店長の料理はびっくりするくらいうまいから、楽しみにしとけよ!」

 お兄さんはニヤッと笑うと、ストローの紙ゴミを回収して帰って行った。

 あれ?  お兄さんの笑った顔、とってもかわいいんじゃない? アイドルの飛燕君に似てるんじゃない?

 お母さんにも、教えてあげなきゃ……。

 そこまで考えて、また心がシュンとしぼんでしまった。

 最近、ずっとこれを繰り返している。お母さんが死んでしまったことが受け入れられず、気がつくとお母さんのことを考えてしまう。そして、現実を思い出して悲しくなる。ぐるぐると同じ所を回って出られない、輪っかのトンネルにいるみたいだ。

「出口なんてないんじゃないかな」