「父さん、忘れていたんですね」
「そうなの! 私が今夜は久々の外食かしら? って思ってたら、『晩飯は簡単なものでいい。トンカツとか』って言うのよ! トンカツは簡単かもしれないけど、楽じゃないのよ! そこも許せない」
「たしかに、衣を付けたり、油の処理をするのは手間ですよね。分かりますよ、母さん」

 おばあちゃんを必死になだめるりんごおじさんを見ていると、ましろはつい、笑ってしまいそうになった。

 けれど、それはさて置いてだ。

「それで、おじいちゃんとケンカして、おばあちゃんは家出したの?」
「そうなの。一度、私がいなくて困ればいいのよ。というわけで、凛悟、ましろ。しばらく厄介になるわね」

 当然のように世話になる気満々のおばあちゃんに、ましろのりんごおじさんは「えぇ……っ?」と戸惑った。

 おじいちゃんはバーベキューやおもちつきなんかの特殊スキルはあるけれど、掃除や洗濯のような家事は苦手だった。長年、おばあちゃんに任せきりだったのだ。となれば、きっとおじいちゃんの負うダメージはとても大きい。

「おじいちゃん、大丈夫かな」
「知ったこっちゃないわよ。さぁ! 店は休みの時間でしょ? ましろ~、遊びに行きましょう! 何でも好きなもの買ってあげるから」

 おばあちゃんは、とても明るく笑いながら立ち上がった。

 わーい! と、手放しでは喜べない状況だけれど、ここは、おばあちゃんと出かけるのが良さそうだ。チラリとりんごおじさんを見ると、りんごおじさんもうなずいていた。

「せっかく来たんだもんね。遊びに行こ! おばあちゃん!」



 ***
 それから、世界遺産の神社に行ったり、ショッピングモールで服を買ったりと、ましろとおばあちゃんはいろんな場所に足を運んだ。ましろはもうくたくただけれど、おばあちゃんは「まだまだ行くよ!」と元気いっぱいだ。

「やっぱり、町にはハイカラな所がたくさんあって楽しいわね~!」
「ハイカラって、どういう意味?」
「目新しくって流行ってる、みたいな意味よ。とにかく、田んぼと畑ばっかりの田舎とは違うわ」