ましろがアイスコーヒーを出すと、おばあちゃんはおいしそうにごくごくと飲んでいる。田舎からの長旅にぐったりした様子だ。

「母さん、お店の立地は気にかけてくれなくていいですから、家出について話してください」
「まったく。凛悟はせっかちね。そんなんだから結婚できないのよ」
「僕は割と落ち着いた方ですけどね。そんな嫌味を聞きたいんじゃなくて、父さんと何があったかを教えてほしいんです」

 りんごおじさんは困った顔で、おばあちゃんの正面に座っている。ましろはその隣に座って、アリス君は家族水入らずを邪魔しない様にとバックヤードに引っ込んだ。

「おじいちゃんとおばあちゃん、こないだ遊びに行った時はすごく仲良しだったのに」

 ましろは、なかなか口を開かないおばあちゃんより先にしゃべった。
 先月、ましろとりんごおじさんが田舎に行った時は、ささいな言い争いこそあっても、二人は仲良くアイスクリームを作って食べていたのだ。

「だから、ちょっと信じられないんだけど」
「ましろ。おじいちゃんは、やってはいけないことをしたの。それはもう、許せないことをね」
「何? もしかして、浮気? 犯罪?」

 ましろが緊張するなか、おばあちゃんはグッと言葉をためて言った。

「結婚記念日を忘れたのよ!」

 おばあちゃんはダンッとテーブルを叩いて怒っていたけれど、正直「なぁんだ」と思ってしまった。

 おじいちゃんが、罪を犯していなくてよかった……。

「父さんが犯罪を犯していなくてよかったです」
「凛悟! あんたねぇ! 私にとっての結婚記念日がどれだけ大切か分かってないからそんなことを!」

 ひえーっ! 怖い!

 おばあちゃんが怒り、りんごおじさんは身を縮めた。一方、同じことを思っていたましろは言わなくてよかったと、こっそりと胸をなで下ろしていた。それくらい、おばあちゃんは珍しく激しく怒っている。

「貧乏だから結婚式ができなかった私にとっては、結婚記念日ってのは、ものすごく重要なんだよ! 毎年、ささやかでもいいから祝って来たのに、それなのにあの人ときたら!」
「そうでした。母さんは、結婚記念日をとても大切にしてたんでした」

 多分、昔からそうだったのだろう。息子のりんごおじさんは、思い出したという顔をしてうなずいている。