ある土曜日、嵐は突然にやって来た。
 カランカランカラーンッとドアベルが大きな音を立てたかと思うと、ましろのよく知った人物が突撃してきたのだ。

「はぁ~、やっと着いた! 都会の道はややこしくて困るわね!」

 ふぅふぅ言いながら巨大な旅行かばんを引きずっているのは、ましろのおばあちゃんでりんごおじさんのお母さん──、白雪海子だ。ツバの広い帽子にサングラス、上品な花柄のワンピースを着ていて、いつもの動きやすい服装とはだいぶん違うけれど、確かにおばあちゃんだ。

「おばあちゃん……っ?」
「母さん……っ?」

 ましろとりんごおじさんの声が重なって、お店の中に響いた。

「家出して来たわよ!」

 どーんっと入り口で仁王立ちをして叫ぶおばあちゃんに、ましろはしばらく反応できなかった。そして数秒後。

「いっ、家出ぇぇぇぇっ?」

 思わず目が飛び出そうになった。


 ***
 ランチの時間が終わってから、おばあちゃんは「どっこいしょ」とお店の席に腰かけた。

「あ~、疲れた。電車の乗り継ぎはしんどいし、凛悟の店はなかなか見つからないし。店の立地、悪いんじゃないの?」