ましろは小走りでキッチンに行き、りんごおじさんから「あるもの」を用意してもらうと、再びテーブルに戻って来た。

「大地君! 当店から、ダイエットをがんばったごほうびです。どうぞ!」
「ましろちゃん、これは……!」

 ましろが大地君の前に置いたのは、もりもりのライス大盛りだ。ふっくらと炊き立てのお米が、おいしそうに盛り上がっている。

「俺がダイエットしてるの知ってるのに、どうして?」
「大地君は、いっぱい食べないと! ですよね、愛華さん?」

 戸惑う大地君をよそに、ましろは愛華さんに話しかけた。すると、愛華さんは照れた様子で「そうよ」うなずく。

「私、たくさん、おいしそうにご飯を食べる重野君が好きなの」
「えぇ! でも、愛華さんにつり合うスマートな男の方がいいかと思って、必死にダイエットしたんだよ!」
「私、そんなこと望んでないわ」

 愛華さんはクスクスと笑いながら、ましろに「ありがとう」と言った。

「やせる努力ができる人だって、分かってよかった。でも私は、重野君にはぽっちゃり体型でいてほしいの」

 愛華さんは、食べている大地君を眺めることが大好きらしい。だからこそ、「ギョウザ大食い大会」で、大地君に魅力を感じた。そして今までおいしいデートばかりだったのも、愛華さんが大地君に色々と食べさせたかったからだろう。

「……これからは、私が毎日ご飯を作ってあげる。痩せるヒマなんてないくらい」
「愛華さん! それって、もしかして、俺と……」

 グイッ!

 大地君の口に、オレンジ色のバラぎょうざが愛華さんによって突っこまれた。

「ふぐぐっ」
「ご飯が進んじゃうわね、重野君」

 微笑ましい光景に、ましろとアリス君は顔を見合わせた。

 恩田さんは少しがっかりするかもしれないけれど、大地君はリバウンドしてしまうだろう。幸せ太りというやつだ。

「ご飯のおかわりは自由です!」





 ***
 ましろは数週間後の学校帰りに、愛華さんが《花かご》のお店番をしている姿を見かけた。 

「愛華さん、こんにちは!」
「あら。あなたは《りんごの木》のウエイトレスのましろさんね。また重野く……、大地君から聞いたわ」

 名前を言い直す愛華さんを見て、ましろの胸はじんわりとぽかぽかするような、なんとも言えない嬉しさがこみ上げてきた。