そして、恩田さんプロデュースのダイエット作戦がスタートした。まずは、朝の六時から白鷺川沿いをウォーキング。

「眠たいよ。もうちょっと寝させて」
「ましろさん、いきなり欠席はよくないですよ。さぁ、バナナジュースを作りましたから、飲んで出発です」

 そんなやり取りをした後、ましろはりんごおじさんに布団を引きはがされ、白鷺川に送りこまれた。

「おはよう! ましろちゃん、大地君。ジャージがよく似合ってるわね」
「恩田さん! ご指導よろしくお願いします!」

 恩田さんと大地君は、朝からとても元気がいい。むにゃむにゃしているのは、一番若いましろだ。眠くて眠くてたまらない。

「ふわぁぁ~……。こんな朝からしなくても……」
「何言ってるの、ましろちゃん! 朝はさわやかで気持ちいいわ! 何より、一日のエンジンをかけるのにぴったりよ!」

 ましろは、恩田さんに引きずられるような形で歩き出した。ただし、めちゃくちゃ速い。

「歩く時の姿勢が大切よ! 大地君、背筋伸ばして! ましろちゃん、足はかかとから地面に着けるのよ!」
「まっ、待って! おんださ……。ひぇーーっ!」



 ***
 小学校から家に帰ると、バランスボールのお出ましだ。
 ましろはボールをイスの代わりにしながら、宿題をしたり、テレビを見たりしていた。ただし、油断するとボールから転がり落ちてしまう。

「なんで、わたしまでダイエットメニューをやらなきゃいけないのかなぁ」

 ましろは、テレビを見ながらボヨンボヨンと弾んでいた。気持ちではない。体だけだ。

「せっかくおもてなしするんですから、大地君の想いを知っておいてもいいんじゃないでしょうか。いっしょに頑張れば、見えてくることもあると思いますよ」

 りんごおじさんは、キッチンからこちらをのぞいて笑っていた。

《りんごの木》は木曜日が定休日で、りんごおじさんは張り切ってキッチンにこもる。カウンターの上に、きれいに形が作られた焼く前のぎょうざが並んでいるので、どうやら大地君と愛華さんのための料理を試作中らしい。

「大地君の想いぃ?」
「ましろさんは、誰かに恋をしたことはありますか?」

 ピンと来ていなかったましろに、りんごおじさんは問いかけた。料理をする手は止まっている。

「こういうことは、姪っ子に聞くものではないのかもしれませんが……」