ましろの心の叫びは、涙といっしょにどんどん溢れてくる。
 悲しくて、寂しくて、寒くて、何もかもが遠くてよく見えない。どうしたらいいのか、分からない。

 そして、それをりんごおじさんは、黙ってうなずきながら受け止めてくれた。

「お店に……、《りんごの木》に行きましょう」

 しばらくして、りんごおじさんは静かに口を開いた。

「いっしょにご飯を食べましょう」
「ご飯?」

 突然何を言い出すのかと、ましろは戸惑った。けれど、りんごおじさんはいたって真面目な顔をしていて、強くましろの手を握り、そのまま家を飛び出した。


***
 ファミリーレストラン《りんごの木》に、一日二回も来ることになるなんて、思っていなかった。

 ましろは、グイグイとりんごおじさんに手を引かれ、お店のはしっこのテーブルに案内されていた。

「あの、おじさん! 他のお客さんが見てます!」

《りんごの木》は、二人がけと四人がけのテーブルがそれぞれ二つずつあるだけの、小さなお店だった。しかし、ましろがいる二人がけテーブル以外の席は満席。なかなかの人気店なのかもしれない。

 そしてだからこそ、他のお客さんの不思議そうな目線が気になってしまう。

「え、そうですか? ましろさんはお客様として堂々としていたらいいんですよ」

 りんごおじさんはきょとんとしている。

「りんごおじさんって、図太いですね……」

 そんなこと言われたって、店長がバタバタとお店に引っ張りこんで来たお客さんなんて、目立つに決まっている。多分、気のせいではないと思うのだけれど、周りの視線をひしひしと感じるましろである。
 なので、ましろはなるべく目立たないようにと、壁に張り付くようにしてイスに座った。

「りんごおじさん。わたし、ご飯はあんまり食べれないと思います。その……味が分からなくて」

 念のため、先に言っておかなければ。
 
 ましろは、作ってもたった料理が無駄になることで、りんごおじさんを傷つけたくなかったのだ。

 しかし、りんごおじさんはどこ吹く風。

「僕は、ましろさんが喜ぶ料理を作りますよ! 注文は、【おまかせ】にしてくれると嬉しいのですが」

 これが、プロの自信ってやつ?